イケアはなぜ今、原宿への出店を決めたのか 2020年春に日本初の「都市型店舗」を出店へ

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イケア・ジャパンのヘレン・フォン・ライス社長は、今年8月の事業戦略説明会で店舗の都市化とデジタル化に注力していく考えを強調した(記者撮影)

イケア・ジャパンの業績はここ数年伸び悩んでいる。2016年8月期以降は売り上げの減少が続き、2017年8月期の決算は売上高740億円(前期比3.5%減)、営業損益は14億円の赤字(前期は16億円の黒字)に転落。未上場のため詳細な決算情報は開示されていないが、客数の減少が足を引っ張ったとみられる。

今年8月に開かれた事業戦略に関する説明会で、イケア・ジャパンのヘレン・フォン・ライス社長は今後の成長に向けて、店舗の都市化やデジタル化の必要性を強調。特に東日本大震災以降、首都圏などでは世代にかかわらず、利便性の高い都市部への回帰が進んでいる。同時にライフスタイルも多様化し、家具屋が主力ターゲットとするニューファミリー層でも、車を所有しない世帯が増えてきた。

都心の店舗であれば、これまで取り込めなかった都市部在住者や、車を持たない人たちへの訴求を強めることができる。原宿駅前という好立地でブランドの宣伝効果も期待されるが、都心店ならではの運営の難しさもある。

都心で先行するニトリも苦労

イケア・ジャパンより一足早く、都心出店を進めてきたのが国内の家具最大手のニトリ。2015年4月にプランタン銀座(現・マロニエゲート銀座2)に出店したのを皮切りに、新宿、目黒、渋谷と都内の一等地に続々と出店した。自社店舗が少なく、高所得者や若年層が集まる立地に、今後の伸びしろを狙っての進出だった。

ニトリの都心店では小物雑貨を購入する客が目立つ(撮影:今井康一)

ただ、慣れない都心店の運営に当たっては、ニトリもそれなりの苦労があった。車での来店が圧倒的に少ない都心店は、インテリア雑貨やキッチン用品など小物商品を購入する客が多い傾向にある。一方、店舗賃料や人件費といった固定のコストは高額だ。郊外店と比べ、店舗の採算を確保するハードルは高い。

ニトリは単価の高い大物家具の購入を促すため、店舗とネット通販(EC)の連携を強化。店頭に展示されている商品のバーコードを専用アプリで読み込めば、簡単に決済でき、EC用倉庫から自宅に配送される仕組みを構築した。在庫保管スペースが限られる都心店の弱点を補い、店頭で配送手続きを行う客や販売員の負担を減らす狙いだ。

一方のイケア・ジャパンは、2017年4月にようやくECを始めたが、実店舗と相互送客するような先進的な取り組みは少ない。都心の一等地で多数の来客があっても、売り上げの拡大につながらなければ、コストが経営を圧迫するばかり。都心店に合わせた品ぞろえや独自の配送サービスを確立できるかが、原宿への出店の成否を決めるカギとなりそうだ。

真城 愛弓 東洋経済 記者

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まき あゆみ / Ayumi Maki

東京都出身。通信社を経て2016年東洋経済新報社入社。建設、不動産、アパレル・専門店などの業界取材を経験。2021年4月よりニュース記事などの編集を担当。

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