ゴーンが「虚偽記載」で逮捕された本当の意味 司法取引も絡めた立件で狙う本丸はどこに
上述のように、有価証券報告書は、投資家に正しい判断材料を提供し、市場の公正さを守るためのものであることを考えたとき、この虚偽記載単体でもって投資家の判断に大きな影響を与える重要事項となるといえるかどうかは議論の余地がある。東芝などの不正会計とは影響度合いが違いすぎる。他方で、個人の財産罪という意味では50億円は巨額であり、同じ金額であっても、報酬として虚偽記載とするか、業務上横領や特別背任という財産罪とするか、何を保護法益とするかによって、重要性が異なるわけである。
ゴーンほどの世界的に著名な経営者の身柄を拘束して、最終ゴールを有価証券報告書虚偽記載という形式犯に設定していることは考えにくく、現在あがっている私的流用や不正使用が事案の本質なのだろう(もっともさらなる不正が隠されている可能性もあるが)。
まずは形式的に事実を確定させやすい有価証券報告書虚偽記載で身柄を拘束し、より本丸の事案についても捜査を進めて事実を解明していくという算段であろうと推察されるが、仮に特別背任であれば自己の利益を図り、または会社に損害を与える目的や実際の損害額についての立証が必要となる。私的に流用された資金を実質的な報酬であったとして有価証券報告書虚偽記載という形式犯のみで立件するのか、それとも実質犯である財産罪での立件までいけるのか、今後の捜査次第というほかない。
スペクタクルの背景にあるもの
11月19日に行われた日産の記者会見で、西川廣人社長は今回の疑惑については、日産社内の内部通報で発覚し、数カ月間にわたって内部調査を行った結果、被疑者2名が不正行為に深く関与していたと説明した。
今回、東京地検特捜部は、ゴーンを乗せたジェット機が降り立った直後に、空港内で同人に同行を求めた上で逮捕。そのまま日産本社などを捜索した。同時並行で、朝日新聞が早い段階から「逮捕へ」という見出しで報道を行っており、まるでスパイ映画か何かを見ているような気持ちになるほど鮮やかでスリリングな展開であった。
このように捜査機関、企業、メディアが互いに密に連携をとったうえで、用意周到に準備を進めていく事案は極めて異例である。司法取引が導入されたということがありつつも、日産内部の権力闘争を絡めた複雑な社内事情、さらにはフランス政府をも巻き込んだルノーとの確執など、さまざまな要因が背後にあったうえでの今回の一大スペクタクルであったのだろう。
2015年にコーポレートガバナンス・コードが定められ、企業統治に透明性が求められるなか、次々と企業不祥事が明るみに出ているが、世界第2位の販売台数を誇る巨大自動車グループでもこのようなずさんな管理体制であったこと、そして誰もが知るカリスマ経営者が個人のために悪質な不正行為を行っていたかもしれないという事実は非常に大きな衝撃を与えた。今後の真相究明が待たれる。(一部敬称略)
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら