ゴーンが「虚偽記載」で逮捕された本当の意味 司法取引も絡めた立件で狙う本丸はどこに

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もっとも、司法取引によって免責されるのはあくまで刑事責任にすぎない。前述の取締役の善管注意義務違反に基づく責任などは、司法取引によっても免れるわけでない。いかにゴーンに権限が集中していたとはいえ、これだけの報酬差額が生じていたにもかかわらず、不正を見抜けなかった、もしくは見過ごしていたのだとすれば、企業のガバナンスとして大きな支障があることは間違いなく、他の経営陣も何らかの責任追及は免れないのではないだろうか。企業の管理体制としてはあまりにお粗末であると言わざるをえない。

11月21日時点では、東京地検特捜部が日産自動車自体に対しても立件することを視野に入れていると一部メディアが報じている。真偽のほどは定かではないが、あくまで不起訴まで合意したわけではなく、罪を軽くするというところまでが合意内容だったのかもしれない。ただ、現時点では明らかではない。

本丸は私的流用・不正支出なのか

日産自動車が出資しているオランダの子会社が、レバノン、リオデジャネイロなどにゴーンのための高級住宅を購入したほか、パリやアムステルダムにある会社名義の住宅について低価格でゴーンが利用していた疑いがあるという報道も出ている。

報道によれば、東京地検特捜部は、実際に支払われた報酬が過少申告されていたことに加えて、これらの住宅供与も実質的な報酬に含まれるとして捜査を進めているようだ。というのも、会社法で定める役員報酬とは、金銭に限定されず、たとえば退職年金の受給権・保険金請求権、ストック・オプションの付与、そして低賃料による住宅の提供など現物給付も含まれる。したがって、仮にゴーンが無償ないし相場よりも遥かに低価格で住宅の供給を受けていたとすれば、会社から支払われる役員報酬に該当する。

詳細が明らかではないため判然としないが、仮に報酬に当たらないとしても場合によってはこれらの不正行為が、業務上横領罪(刑法253条)や特別背任罪(会社法960条)に当たる可能性もある。前者であれば10年以下の懲役、後者については10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金が法定刑である。

法定刑だけを見ると、これらの財産罪も今回の逮捕原因となった有価証券報告書虚偽記載もほぼ同じだが、虚偽記載はあくまで実質的な損害の発生を必要としない形式犯である。また、5年で50億円という金額は一般の役員報酬からするととてつもない金額ではあるが、一方で、前期の売上約12兆円、最終利益約7500億円という日産全体の業績からすると虚偽記載額は巨額とは言えないし、過少申告されているのはあくまでゴーン個人の報酬額であり、株主総会決議が必要となる役員全体の報酬総額に虚偽はないようである。

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