総合商社08年9月中間期決算を分析する《スタンダード&プアーズの業界展望》

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アナリスト 吉田百合
館野千鶴

格付け先の総合商社6社(三菱商事、三井物産、住友商事、伊藤忠商事、丸紅、双日)の2008年9月中間期の連結純利益は、前年同期比約5%の減益となった三井物産を除く5社で過去最高となった。三井物産も、前年同期の株式売却益などの特殊要因を除けば実質増益だった。いずれも資源・エネルギー関連の商品価格高騰による増益効果が大きく、景気後退の影響が出はじめている事業部門の減益を補った。

2008年の資源・エネルギーの商品価格は、1−6月までの平均で原油(北海ブレント)が110ドル/バレル(前年同期は64ドル)、銅(LME)が8,100ドル/トン(同6,770ドル)と大幅に上昇した。また年契約が中心の石炭と鉄鉱石も、原料炭が2008年3月期比3倍の300ドル/トン、鉄鉱石(塊鉱)が80%高の90ドル/トンと価格が大きく上昇した。鉄鋼製品も油井管を中心に販売が好調で、肥料など農業用化学品なども総じて堅調だった。一方、前期に好調だった自動車販売に変調が見られるほか、マンション販売も低調であるなど、資源・エネルギー関連以外の事業の一部ではかげりが見えはじめた。さらに株式市況の下落による株式評価損や円高も業績を圧迫している。

中間期は、こうした収益圧迫要因による影響を資源・エネルギー部門の好調で十分に吸収したが、資源・エネルギーの商品価格は足もとで大幅に値を崩している。10月には原油が60ドル/バレル、銅は4,000ドル/トン程度まで下落した。石炭、鉄鉱石についても2010年3月期の価格交渉において値下げを余儀なくされる見通しである。穀物価格の下落も食料部門の川上分野や農業用化学品の販売にマイナス影響を及ぼす可能性がある。傭船料の市況も大幅に悪化しており、今後、船舶事業の減益要因となりうる。また原油価格下落に伴う開発需要減を背景とした鋼管需要の減少や、自動車・家電の減産に伴う鋼材需要の減退は、中間期に好調だった鉄鋼製品部門の収益を圧迫することになる。さらに新興国における景気後退が深刻化すれば、自動車や産業機械の販売減や直接的な投融資エクスポージャーなどにマイナス影響を及ぼす懸念がある。各社は戦略的なポートフォリオ管理の一環として新規投資を行う一方、売却による資産の入れ替えを行ってきたが、世界的な金融収縮により買い手が少なくなっていることなどから、資産売却が難しくなっている。

世界的な景気後退局面にあることを踏まえると、2010年3月期は資源・エネルギー関連以外についても減益が予想される。ただし、近年の利益水準が商品価格の急激な高騰によって大きく上振れした反動という側面もあり、今後、商品市況が足もとと同程度の水準で推移するようであれば、相応の利益を確保できるとスタンダード&プアーズはみている。一方、総合商社は長期性資産を多く保有し、資金調達の安定性が信用力評価上、より重要であることから、金融市場の混乱による影響を注視する。6社ともにメーンバンクとの強固な取引関係を背景に良好な流動性を維持しているが、金融市場の早期安定化が見込みにくいなか流動性管理の状況に従来以上に注目している。

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