尾久と越中島、都会「秘境駅」人気上昇の必然 不動産業者が熱視線、その判断材料は何か

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本来、人口増は自治体にとってありがたい話として受け止められる。しかし、急激な人口増は江東区政に大きな歪みを生じさせた。江東区に流入した新住民の大半は20~30代の子育て世帯。子育て世帯が急増したことで、江東区内の小中学校は大幅に不足した。江東区は既存の学校用地に校舎を増築するなどして対応したが、それにも限界があった。

学校の新設には、計画の策定から始まり、予算計上・用地取得・校舎建設の手順が必要になる。これら一連の作業は中長期にわたるため、短い歳月で学校を新設することはできない。小中学校対策のため、江東区は2004年から時限的に受け入れ困難地域を設定。受け入れ困難地域に指定されたエリアは、4年間、大規模マンションの建設を抑制させられることになった。受け入れ困難地域の設定は、江東区の想定どおりに人口増加を抑制した。他方、受け入れ困難地域から外れた江東区内で開発が進むことになる。

人口増が目覚ましかった江東区において、1990年に開業した新木場駅―東京駅間の京葉線沿線はあまり注目されることがなかった。有楽町線との乗換駅だった新木場駅はそれなりに健闘しているものの、潮見駅・越中島駅のにぎわいは乏しかった。

長らく乗車人員ワーストワンだった越中島駅

特に、越中島駅は周囲に目立った施設が東京海洋大学ぐらいしか見当たらない。また、駅前に商業施設が充実している門前仲町駅まで約500mしか離れていないこともあり、東京海洋大学の学生利用を門前仲町駅に奪われている感さえあった。そうした事情から、越中島駅は長らく東京23区のJR駅で乗車人員ワーストワンという肩身の狭い思いをしてきた。

地下線のため、越中島駅に駅舎はない。出入り口のみ(筆者撮影)

しかし、豊洲駅や清澄白河駅、門前仲町駅の開発が一服したことで、デベロッパーの視線は開発余剰の大きい越中島駅に向けられている。門前仲町駅や清澄白河駅のにぎわいぶりと比較すると、現在の越中島駅はお世辞にもにぎわっているとは言えない。それでも、越中島駅周辺には、少しずつ大規模マンションが建ち始めている。これまで通過していた武蔵野線の快速電車が、2013年から越中島駅に停車するようになったことも少なからず影響を及ぼしていると思われる。

越中島駅が活性化していることは数字にも表れている。23区内のJR駅ワーストワンは脱していないが、2017年度の1日平均乗車人員は約5502人と過去最多を記録。直近10年で4割増という急成長ぶりだ。

23区最後のフロンティアとされる尾久駅と越中島駅。両駅の今後に注目が集まる。

小川 裕夫 フリーランスライター

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おがわ ひろお / Hiroo Ogawa

1977年、静岡市生まれ。行政誌編集者を経てフリーランスに。都市計画や鉄道などを専門分野として取材執筆。著書に『渋沢栄一と鉄道』(天夢人)、『私鉄特急の謎』(イースト新書Q)、『封印された東京の謎』(彩図社)、『東京王』(ぶんか社)など。

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