「挙国一致で農業保護に邁進する日本の不条理」 リチャード・カッツ

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農産物自由化の恩恵はコストを上回る

 自民党はこうした世論の変化を認識し、都市の有権者に触手を伸ばしつつ、しかも農村部の票も維持しようとしている。そのために公共事業を削減する一方、農業改革に消極的になっている。公共事業の削減は橋本内閣に始まり、小泉政権、安倍政権に引き継がれている。公共事業費は96年にはGDPの9%であったが、現在は4%に減った。安倍政権の07年度予算の歳出は1・3%増えたが、公共事業支出は3・5%減少している。

 これとは対照的に農業の自由化はほとんど進んでいない。輸入は増加しているが、それは日本企業の海外子会社からの“再輸入品”が増えているからである。しかも、その輸入も国内の農産物の市場シェアを下げるほど増加しているわけではない。カロリー換算した05年の日本の農産物の自給率は40%である。これは過去8年間とほぼ同レベルである。

 農水省は、農産物の関税を完全に撤廃するために政府は2・5兆円(GDPの0・5%に相当)を農家の所得支援のために支出しなければならないと主張している。その数字が正しいとしても、輸入農産物の増加で農産物価格が6%以上低下するなら、消費者は政府支出増を上回る恩恵を得ることになる。

 今こそ日本の政治指導者は農業が“サンセット”産業であることを認識するべきだ。農業従事者の高齢化と後継者不足のため、05年に農地の10%が遊休化している。政府が農業と日本全体に対してできる最善の策は、農地を非農業企業に売却させ、農家に巨額のキャピタルゲインを享受させることである。また農産物の輸入を完全自由化すべきである。

 自民党も民主党も、経済を鏡写しで見ているようだ。自民党の立場からすれば、それは驚くほどのことではないかもしれない。しかし、民主党の政策で都市部の有権者の多くは幻滅し、それが05年の選挙で自民党の地すべり的勝利をもたらした。

 もし参議院選挙で自民党が勝利すれば、安倍首相は経済改革に興味を失うだろう。また、もし民主党が勝利すれば、同党の過去の改革主義はさらに弱まることになるだろう。逆にもし民主党が敗北すれば、同党は分裂し、日本の一党支配システムはさらに続くだろう。いずれの場合も、日本国民は恩恵を得ることはなさそうである。

リチャード・カッツ
The Oriental Economist Report 編集長。ニューヨーク・タイムズ、フィナンシャル・タイムズ等にも寄稿する知日派ジャーナリスト。経済学修士(ニューヨーク大学)。当コラムへのご意見は英語でrbkatz@orientaleconomist.comまで

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