三洋電機買収に動いたパナソニックの大胆不敵
パナソニックが三洋電機買収に動き出した。
現在、三洋の実質的な経営権は、大量の優先株を保有するゴールドマン・サックス(GS)、大和証券SMBC、三井住友銀行の金融3社が握っている。パナソニックは3社と株式取得に向けた交渉を開始。価格が折り合えば、来年初旬にも三洋株の過半を取得して子会社化する。関係者らによると、パナソニックの大坪文雄社長と三洋の佐野精一郎社長が10月に会談。すでに両社首脳の間で子会社化について大筋合意した。
三洋は不良資産問題が次々と顕在化し、2004年度から2年連続で2000億円規模の巨額赤字を計上。06年春に金融3社に3000億円の増資を行い、命拾いした経緯がある。優先株は普通株に転換できる契約で、すべて転換すると総株式数の7割を占める。その優先株の出口問題が、再編の火種となった。
狙いは三洋の電池事業
「2010年度までは売却しない確約をいただいた」。昨年春に創業家から経営を引き継いだ三洋の佐野社長は、再建に専念できる環境を整えるため、社長就任後すぐに3社へ優先株の売却凍結を要請。出口問題はいったん先送りされたはずだった。が、予想外の金融、経済混乱に見舞われ、金融3社としても事情が変わった。動いたのはメインバンクの三井住友銀。三洋に多額の融資を抱える同行は、優先株売却だけでなく、三洋問題に抜本的な手を打ち、債権回収の確度を高めたい。同行は水面下でパナソニックへ買収を打診し、パナソニック側も三洋を安く買う絶好のチャンスと見た。
中村邦夫前社長(現会長)時代の構造改革で業界屈指の収益力を手にしたパナソニックにとって、次なる課題は「売上高拡大による再成長」(大坪社長)。が、海外ではサムスン電子などアジア勢との競合が激しいうえ、世界的な景気悪化の逆風も吹き、上期の実質増収率は4%。今のままでは中期目標に掲げる2ケタ成長の実現は極めて難しい。
そうした中、買収に動いた狙いは電池事業にある。三洋が世界首位のリチウムイオン二次電池は、電機業界で数少ない高収益成長分野。パナソニックは直近で業界5位だが、三洋を取り込めば一気に4割前後の世界シェアを握れる。国内ではシャープに次ぐ三洋の太陽電池も魅力的で、新たな成長分野が加わることになる。
一方、子会社化をのんだ三洋側には、差し迫った事情がある。金融3社が持つ優先株の半数は売却時に三洋の同意が必要だが、来年4月以降はその制限がなくなる。となると、自分たちの意志に関係なく身売りされるリスクをつねに背負うため、再び経営が混乱しかねない。「本意ではないが、せめて相手を選べるうちに決着させたい」というのが、三洋首脳陣の本音だろう。
もっとも、パナソニックにとって大変なのはこれからだ。金融3社は優先株を高く売り抜けたい。中でも注目されるのは、1社で1250億円分の優先株を持つ百戦錬磨のGSの動向だ。「三井住友と(その傘下にある)大和証券SMBCは常識的な価格で折り合うだろうが、GSは相当に吹っかけるはず。高値で売るために、GSが自分で代替案を出してくる可能性だってある」(大手証券幹部)。
交渉を乗り切っても、買収後の舵取りが最大の難題だ。なにしろ今回の再編は、事業単位にとどまらず、再建中の三洋を会社丸ごとのみ込む大掛かりなもの。「(三洋の)電池だけ欲しがる企業ならほかにもいる。会社丸ごとの条件をこちらがのむからこそ、話が前に進むんだ」とパナソニック関係者は言う。
当然、リスクの大きさは事業買収の比ではない。三洋の白モノ家電や半導体などはパナソニックと事業重複し、競争力自体も欠く。仮に優先株を3社の取得原価で買えたとしても3000億円に上り、子会社化で三洋の5000億円近い有利子負債も背負い込む。その対価に見合う効果を出せるのか。舵取りを誤れば、成長どころかパナソニック自身も沈みかねない。
(渡辺清治 =週刊東洋経済 撮影:今祥雄)
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