任天堂DSiに秘める野心、携帯ゲーム機神話崩壊説を覆せるか 

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任天堂DSiに秘める野心、携帯ゲーム機神話崩壊説を覆せるか 

「完売御礼」--。11月1日、都内各所の家電量販店で、こんな文言が張り出された。店頭から姿を消したのは、任天堂が当日発売した携帯型ゲーム機「ニンテンドーDSi」である。

ひんやりした空気が張り詰める朝7時。東京・新橋駅前の「LABI新橋デジタル館」前には、10人ほどが並んでいた。その後もポツリポツリと列が延び、午前10時の開店前には58人に。同店はこの日、開店40分で100台近くをさばいた。「想定どおりですね」と田島佳記AVソフトフロアー長。そして夕方5時30分、用意した初回入荷分250台をすべて売り切った。

ひとまずは順調なスタート。だが2006年3月の「ニンテンドーDS Lite」発売時には、各地で徹夜の大行列ができ、開店と同時に完売していった。その熱狂ぶりと比べると、今回はヨドバシカメラなど事前予約を取る店が多かったにせよ、どうしても隔世の感は否めない。

「神話もここまで」投資家は冷ややかな評価

「家族で共有するのではなく、ユーザーごとに1台の普及を目指します」。岩田聡・任天堂社長は10月2日のDSi発表会見で、「DS1人1台戦略」を高らかに宣言した。

DSはゲーム業界に革命を起こした大ヒット機種である。上下二つの液晶ディスプレーを備え、タッチペンによる書き込みでゲーム機を動かす方式を採用。高性能化するゲーム機の流れに反し、わかりやすさとシンプルさを徹底追求した。普及の起爆剤となったのが自社ソフトの「脳を鍛える大人のDSトレーニング」。国内に脳トレブームを巻き起こし、中年男性や主婦など新しいユーザー層を開拓した。04年に初代DSを投入して以降、バージョンアップしたLiteを経て人気は衰えず、世界販売は8400万台に達する。

ただ、ここに来て国内販売は明らかに鈍化している。一方、ライバル機種であるソニー・コンピュータエンタテインメントの「プレイステイション・ポータブル」(PSP)は急伸。高画質を武器に「DSに物足りなさを感じたユーザーを取り込んだ」(任天堂ほか多くの企業のビジネス書著者である溝上幸伸氏)。

国内での蹉跌(さてつ)から立ち直るために任天堂が投入したのが、今回のDSiだ。カメラやオーディオ機能を搭載し液晶画面を大きくする傍ら、本体の厚さを2・6ミリメートル薄くした。

一方で、基本的なデザインはLiteを踏襲。カメラ機能もわずか30万画素にすぎず、200万画素以上が当たり前になったカメラ付き携帯電話に比べると、見劣り感が否めない。DSi発表の翌日、任天堂の株価は前日から7%も下落。投資家は「新鮮味がない」と判断したようだ。しかも、国内販売は限界普及台数といわれる2000万台を超え、1世帯当たりでは1・8台に達した。「神話もここまで」。関係者の間では冷ややかな見方が広がりつつある。

ところが、である。任天堂は無謀ともいえる「1人1台」を本気で狙っているのだ。それはそのまま、DSiへの自信にほかならない。その強気は、新たにこの新機種に付加された、従来のDSにない機能にある。

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