任天堂DSiに秘める野心、携帯ゲーム機神話崩壊説を覆せるか 

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ネット展開と生活分野 攻めに出る2つの領域

256メガバイトの本体保存メモリ、これこそがDSiの真髄だ。LiteやPSPにも本体メモリはあるが、データ保存が目的ではなく、ゲーム機を円滑に作動させるための小容量の部品にすぎない(PSPはフラッシュメモリ+DRAM、DSは未公表)。しかもDSiはSDメモリカードも使用できるため、本体メモリがフル状態の際の保存場所もある。

本体メモリの装備により、ユーザーは専用ソフトなどをゲーム機本体に保存できる。LiteやPSPはゲーム機の電源を消せば、その時点までのデータもすべて消える。進行中のゲームについてはソフトにセーブされるため、ゲーム機の機能を追求するだけならば、これでも支障はないだろう。DSiが本体メモリを備えた真の狙いは、二つの新たな領域に本格的に踏み込むことにある。

その一つ目がネットビジネスだ。ユーザーは本体内蔵の「DSiショップ」を通じて専用ソフトをダウンロードして購入できる。任天堂はすでに「ちょっと脳を鍛える大人のDSiトレーニング 文系編」と「理系編」の2作品を発表。パズルゲームの開発も進行している。今後の展開として、過去のゲーム機用に発売したソフトを低価格でダウンロード販売するビジネスも当然視野に入るだろう(据え置き型ゲーム機「Wii」ではすでに展開中)。

ネットビジネスの拡大で“流通革命”が起きる可能性もある。音楽業界がそうであるように、ソフト販売の主流は、将来的にパッケージからダウンロードへと移行することが考えられる。あるソフトメーカー幹部は「われわれは大歓迎。(ソフト会社が負担している)流通コストをカットすることができる」と話す。

二つ目は生活分野への浸透だ。Liteで料理レシピや学習ソフトなど生活分野に進出していたが、DSiは本体メモリを備えたことで、老若男女に一層の浸透を図れる。

無償配信されるソフト「動くメモ帳」を保存し、これにカメラ機能を組み合わせればフォトアルバムとして活用できる。駅路線図(配信計画中)など実用系ソフトが拡充されれば、DSiを常時持ち歩く営業マンも増えるかもしれない。発売中のソフト「歩いてわかる生活リズムDS」で分刻みの歩数を測定すれば、サラリーマンのメタボ対策グッズに加わる可能性も出てくる。さらに、任天堂がメールソフトを配信することになれば、キャラクターを使ったメール通信も可能になるだろう。

専用ソフトの保存でユーザーのカスタマイズ化が進めば、普及の余地はまだまだあるはず--。本体メモリは、任天堂が描く1人1台戦略のキモ中のキモなのである。

高収益体質築いたDS 「次のラウンド」へ先手

任天堂にとって、DSは打ち出の小槌(こづち)だ。「DSはハードが利益率2割、自社ソフトが利益率7割」(ゲーム業界に詳しいアナリスト)と、成長の牽引車である。古い技術を集めたローテクマシンゆえ原価率が比較的低く、ヒットソフトの大半を高採算の自社ソフトが占めている。

DSとWiiを2本柱に据え、足元の業績も絶好調だ。09年3月期は売上高2兆円を突破する勢い。円高に苦しみながらも営業利益率30%超を見込んでいる。国内市場の頭打ちは懸念材料だが、欧米でのシェアが携帯型、据え置き型ともに5割を超えるなど、海外での存在感は増している。生産・組み立てはミツミ電機など外部に委託、事実上のファブレス経営も高収益を支えている。

それでも、02年に創業家の山内溥氏(現相談役)からバトンを渡された岩田社長は手綱を緩める気配がない。「永久に好調を続けた会社を見たことがない。いつか次のラウンドがやってくる」と言う。

ゲーム業界はヒット商品の登場でトップランナーが入れ替わる変動の激しい世界。Wiiの突然の凋落が起きないとも限らない。実際、据え置き型「ゲームキューブ」などの苦戦で業績が低迷した過去がある。それを熟知しているからこそ、ネットによる新たな収益源確保や、景気変動を受けにくい生活分野への浸透を狙ったDSi投入なのである。

情報端末機iPhoneや携帯電話、あるいはライバルPSPとも立ち位置が違うDSiは、山内氏の口癖「娯楽はヨソと同じがいちばんあかん」を形にした独自性の高い機器。従来の枠を飛び越えた未開拓領域を任天堂はひた走ろうとしている。


(梅咲恵司 撮影:谷川真紀子、吉野純治 =週刊東洋経済)
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