お金があれば人の行動を縛れるという勘違い

行動経済学が解く「モチベーション」の謎

金銭的報酬が支払われると、学生の意識は作業の知的挑戦を楽しむこと(内発的モチベーション)に向かわず、金銭的報酬が十分か否か(外発的モチベーション)に向けられた。

ほかの実験でも、少額の金銭的報酬を支払うと被験者の意欲が低下し、まったく報酬を支払わない場合よりもパフォーマンスが落ちることが示されている。少額の報酬によって内発的モチベーションがクラウディング・アウトされる一方、外的インセンティブが不十分であるために外発的モチベーションが十分に働かないのだ。

罰金を導入したら遅刻が増えた!?

外的なインセンティブとディスインセンティブ(負のインセンティブ)は、ときとして驚くようなかたちで私たちの日常生活にも影響を及ぼす。経済学者のウリ・ニーズィーとアルド・ルスティキーニがそれを示した保育園での実験を見てみよう。

イスラエルのとある保育園は、保護者が時間までに子供を迎えに来ないことに悩まされていた。閉園時刻を過ぎても、保護者が来るまで保育士が残って子供の面倒を見ることも多かった。これにはコストもかかり、保育園と保育士にとっても不都合であったため、経営陣は保護者の遅刻を防ぐために罰金を導入することにした。

すると予想外の結果が出た。罰金の導入によって、閉園時刻に遅れる保護者は減るどころか増えたのだ。

原因は保護者たちが罰金を抑止策とは受け取らなかったためだと研究者チームは考えた。保護者たちはそれをサービスの対価ととらえたのだ。保育園は通常の保育時間後も子供を保育するという追加サービスを提供しているのだ、と。保護者のなかには進んで追加サービスの費用を払う者もいた。しかもそれを互酬的で双方にとって有益な取り決めと考えたため(結局のところ保育園は追加収入を得ることになったのだから)、以前は頻繁に遅れることの歯止めとなっていた罪悪感を抱かなくなった。

これも内発的モチベーションのクラウディング・アウトと言えるだろう。罰金が導入される以前は多くの保護者が保育園に気を遣い、協力しようとする内発的モチベーションを持っており、できるだけ時間どおりに迎えに来ていた。しかし罰金導入によって保護者の状況認識は変化した。そして遅く迎えに来られるという追加的サービスの対価を支払うようになった。罰金という金銭的な負のインセンティブによって、協力的な保護者であろうとする内発的モチベーションがクラウディング・アウトされたのだ。

献血も、外発的モチベーションによって内発的モチベーションがどのようにクラウディング・アウトされるかを示す重要な例だ。献血の不足には多くの国が頭を悩ませており、経済学者は献血者を増やす新たな方法を模索してきた。経済的な解決策としてわかりやすいのは、献血者にお金を払うことだ。

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