トルコを追い詰めるとシリア難民が暴発する 暴君エルドアン大統領より深刻な米国との溝

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どうしてここまでアメリカと関係がこじれたのか。筆者はトランプ政権に大きな責任があると考える。

目下、トランプ大統領の頭の中は、11月6日の中間選挙に勝つことだけだ。そのため、トランプ大統領のハードコアの支持者であるプア・ホワイトやユダヤ人ロビーと協調するキリスト教福音派の歓心を買う。

特にキリスト教福音派はアメリカで5000万人から6000万人もいる。ロシア疑惑やセクハラ疑惑などスキャンダルまみれのトランプ大統領だが、それでも有権者の35%程度の支持者を確保し、意外なトランプ人気に共和党穏健派も頭を抱えている。さらにこの成果に乗り、従来のアメリカ外交では考えられなかった禁じ手を使って、人気を集める行動を取る。

2018年になってからは5月、アメリカによるエルサレムの首都承認もあった。これには「従来の国際秩序を破壊することになる」と、世界中が反対したものの、押し切った。6月にはシンガポールでトランプ大統領と北朝鮮の金正恩委員長の首脳会談が実現したが、北朝鮮非核化のロードマップは見えず、単に両首脳が会談したことを世界にアピールするだけの結果に終わってしまった。

200万人近いシリア難民という”爆弾”

トランプ大統領にとって、次の矛先はトルコだ。ブランソン氏はトランプ大統領のハードコアな支持母体であるキリスト教福音派の牧師。福音派牧師の身柄解放は、福音派に対するトランプ大統領の大きな”得点”になる。

米中間選挙の11月6日までは、まだ時間がある。この日を見据えてトランプ大統領はさらに人気取りの奇策に出るはずだ。

とはいえトルコのエルドアン大統領も引き下がらない。エルドアン大統領はしばしば”トルコの田中角栄”とも呼ばれる。道路や鉄道、住宅など、インフラ整備(公共投資)や貧困層の境遇改善に、「開発独裁」と非難されながらも成果を挙げてきた。貧しかったトルコをG20の一員にする成果を残した。「やるならやれ」がエルドアン大統領の胸の内ではないか。

トルコ経済の破綻は、トルコとの貿易や金融取引が多いEU(欧州連合)経済と銀行に、打撃を与える。トルコリラが下がると、つれてユーロも少しだが下がる。

最後にエルドアン大統領には最後の”自爆テロ”的な反撃手段がある。トルコには多数のシリア難民がいる。正確な数はつかめないが、150万人から200万人と報道されている。現在はこの膨大な難民をトルコ政府がEUや国際機関の援助を受けながら抱えている。しかし、EUから難民支援金が滞っていると、トルコ政府は不満を漏らす。

このシリア難民の少数でもEUに放逐すれば、どうなるかは火を見るより明らかだ。EU加盟国の政権は深刻な危機を迎えるだろう。

内田 通夫 フリージャーナリスト

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うちだ みちお / Michio Uchida

早稲田大学商学部卒。東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』の記者、編集者を歴任。

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