あの「グラミン銀行」が日本を救う日は来るか 日本展開における期待と課題

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2つ目は起業家の養成。日本経済を活性化させるために、開業・起業を促進したい国の意向がある一方、廃業数は開業数を上回っている。2017年度の「中小企業白書」(中小企業庁)によると、2009年から20014年の間の廃業数は113万社。開業は66万社なので、実質47万社が減っている。この流れを止め開業数を増やす効果が期待される。

3つ目は、福祉士の削減である。生活保護費に代表される貧困層に使われる税金や社会保障制度をどのように減らすかという議論に結論は出ていないが、少なくとも生活保護世帯が要保護状態から脱却することができれば、日本全体の福祉費を削減し財政を安定させることに貢献できるのではないか。

日本では借金に対する抵抗感が強いが…

長期的な視野で見れば、子どもに対する機会提供につながることも期待される。前述のとおり、教育費が高騰する中で、貧困家庭に育った場合、レベルの高い教育を受けることは難しくなってきている。たとえば親がグラミンから融資を受けて、貧困から脱却できた場合、その子どもも教育を受けたり、習い事に通ったりできるようになるかもしれない。また、貧困を理由に子育てをあきらめる、といった状況の改善にもつながる可能性がある。

一方で、グラミンには課題もある。1つは、起業をしたいというシングルマザーやワーキングプアをどう探すか。グラミンは3月半ばに、日本シングルマザー支援協会と連携することで合意しているが、より多くの起業意欲のあるシングルマザーをネットワークに取り込むことが互助システムを確立させるためにも重要だ。

その互助グループを組成するのも容易ではない。日本では、江戸時代には「五人組」など互助的組織はあったが、近代においてはどのように組成して運営すべきかノウハウがあまりない。当面は、グラミンがサポートするようだが、知人とグループを作ったとして、自分の失敗が相手に影響し、相手の失敗が自分に影響するという仕組みがどの程度日本になじむのかは、未知数である。

また、事業を興すためとはいえ、おカネを借りることに抵抗感がある人も少なくない。日本では、借金をして返済できなくなった際、連帯保証人にまで資金回収の督促があるため、起業のためにおカネを借りることに対する心理的な負担感があるように思える。起業だけなら簡単でも、資金を借りて事業を展開したら返済するという仕組みは、少しハードルが高いのではないか。ただし、互助システムの確立も含めて、グラミンがビジネスをサポートする体制が整えられれば、この課題も徐々に解消していくかもしれない。

近年はクラウドソーシングやスマホアプリのように、簡単に事業を始められるプラットフォームも増えてきている。さらに、グラミンの互助システムなどを通じてビジネスを安定的に続けられる体制が整えば、グラミンを利用したいと考える人も増えるのではないか。

高橋 成壽 ファイナンシャルプランナー

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たかはし なるひさ / Naruhisa Takahashi

寿FPコンサルティング株式会社代表取締役。慶應義塾大学総合政策学部を卒業後、金融系のキャリアを経てFPとして独立。お金を増やす、お金を守るという視点でFPサービスを提供。30代40代の財産形成、50代60代の資産運用、70代以降の相続対策まで幅広い世代に頼られている。「ライフプランの窓口」を企画運営。著者に『ダンナの遺産を子どもに相続させないで』(廣済堂出版)がある。日本FP協会認定CFP。

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