大混雑なのに大赤字「舎人ライナー」の不思議 田園都市線より混むのに輸送力増強は限界

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舎人ライナー路線図(記者作成)

現在、6〜7時台の上り列車は1時間当たり18本を運転しているが、混雑は激しい。「無人運転のため乗務員の準備などがいらず、比較的こまめにダイヤ改正ができる」(お客様サービス課)というメリットを生かして増発を重ねてきたものの、利用者の伸びがそれを上回るという、まさに「いたちごっこ」の状況が続いてきたわけだ。

都交通局によると、当初の需要予測では、開業時の利用者が1日当たり約5万1000人、6年目に約7万人を見込んでいた。だが、6年目の混雑率は170%を超え、輸送力増強を迫られる状況ではあったものの、1日の利用者数が7万人に達したのは、想定よりも1年遅い7年目の2014年度だった。

朝のラッシュ時への集中が想像を超えていた

都交通局は「朝の通勤時間帯への集中率がわれわれの想定を超えていた」(総合技術調整担当課)、「輸送の容量は都営地下鉄や他社線の事例なども踏まえて考えるが、ここまで朝に集中するという前例はなかった」(お客様サービス課)と、朝ラッシュ時への集中の激しさを指摘する。実際、2016年度も終日の混雑率は42%だ。開業2年目の2009年度から2014年度までの利用者数の動向を見ると、1日当たりの利用者数は約5万400人から7万人へと29%増加。一方、朝ラッシュ1時間当たりの片道輸送人員は、同期間に5293人から7281人へと38%増えた。「完全に一方通行の通勤路線になっている」(お客様サービス課)。「バスだけだった地域に新しい交通機関ができるということで、不動産業界の関心は高く、空き地が出ればすぐマンションが建つという感じになった。そういった点が予想外だったことになるかと思う」という。

輸送力の増強は限界に近づいている。開業時の計画では最大16編成だった車両は、2015年度と2017年度に1編成ずつ追加投入し、現在18編成。2020年度にはさらに2編成を増備し、総勢20編成となる。車庫は17編成分のスペースしかなく、1編成を駅に留め置いても2編成分の置き場が足りないが、車庫内の試験走行用線路を使って確保する。信号システムには余力があるといい、まだ増発は可能だが「車両を20編成以上に増やすのは、現状のシステムでは極めて困難」(総合技術調整担当課)という。

利用者からは「1両でも車両が増えればいいのに」との声もあるが、総合技術調整担当課では「6両編成対応への拡張は、収支が赤字の中で大規模改修ができるかといえば、現実的にはできない」と説明する。これだけ混雑するものの、日暮里・舎人ライナーは赤字なのだ。

2016年度の都交通局決算では、「新交通事業」は8億1800万円の経常赤字。累積赤字の解消には36年かかる想定だが、「当初計画より車両を増やしており、さらに2編成を導入するので、想定は見直さなければならない状況」(総合技術調整担当課)だ。

今後の需要予測は現在策定中というが、「地元の人口推計ではまだ伸びる傾向がある」ため、さらに混雑が増す可能性もありそうだ。だが、「朝ラッシュ時だけ利用が多くても、投資に見合った収入にはならない。ほかの時間帯ももっと利用があればいいのですが……」(総合技術調整担当課)。

2017年には、小池百合子都知事が提唱した「時差Biz」が一時的に話題となったが、日暮里・舎人ライナーの現状は、交通機関だけでの通勤混雑対策に限界がきていることを示しているのではないだろうか。

小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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