電撃訪中の狙いは?米韓に広がる「嫌な予感」 「見返り」がなければ核放棄に応じない可能性

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トランプ米大統領は、国益のためにはどんな方法でも取る指導者だが、中国も同じだ。これまでは米国と歩調を合わせて、北朝鮮への経済制裁を実行してきた。

しかし、トランプ大統領が最近、中国からの輸入品に高い関税をかけると表明したことから姿勢が変わった。

中国側は「貿易戦争は望まないが、決して恐れない」「中国はとことん戦う」と宣言している。このため、専門家の中には、北朝鮮問題をカードにして、米国に譲歩を迫るつもりではないかとの分析も出ている。

サンダース米大統領報道官は28日、中朝首脳会談について聞かれ、一定の評価をする一方で、「(米朝首脳会談が)正しく行われることを確認したい」と述べ、警戒心も覗かせた。中国の後ろ盾を得て、北朝鮮が核問題をめぐり、強気で出てくる可能性を感じているのだろう。

韓国政府も穏やかではない。文在寅大統領は昨年12月に3泊4日で訪中しているが、空港での出迎えは、中国外務省の幹部で、習主席との夕食会は1回だけ。中国政府の指導部である中央政治局常務委員は、2人としか会えなかった。

明らかに、正恩氏の方が大切にされている。

また、韓国の特使団が平壌を訪れ金正恩氏と会談した際には、特使団が懸命にメモを取る様子が北朝鮮のテレビで放映され、韓国で「卑屈だ」との批判が起きた。

「運転席を金正恩に完全に奪われた」

今回の訪中で正恩氏は、逆に習主席の話を聞きながら熱心にメモを取っていた。

このシーンは、韓国メディアをやはり刺激したようだ。「習主席が兄で、正恩氏が弟のように見えた」(東亜日報)と皮肉っぽく伝えている。

文大統領は来月27日に、金正恩氏と首脳会談を行う。今回の中朝首脳会談の結果について韓国政府は、とりあえず「(今後の首脳会談に)肯定的な影響を与えるだろう」と評価している。

しかし、韓国の野党からは、「韓国政府が下手な運転をしている間に、(核問題をめぐる協議の)運転席を金正恩に完全に奪われた」(洪準杓自由韓国党代表)と政府の楽観的な見方に、批判が起きている。

五味 洋治 東京新聞 論説委員

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ごみ ようじ / Yoji Gomi

1958年、長野県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、中日新聞東京本社入社。韓国・延世大学に語学留学の後、1999年から2002年までソウル支局に勤務。2003年から2006年まで中国総局勤務。この間、2004年に北京国際空港で金正男に偶然会ったことからメールのやり取りが始まり、のちに単独インタビューを実現させる。2008年8月から10カ月間ジョージタウン大学にフルブライト留学。現在は東京新聞論説委員。著書に『金正恩 狂気と孤独の独裁者のすべて』(文藝春秋)、『父・金正日と私 金正男独占告白』(文春文庫)など。

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