シーメンス、英国「鉄道新工場」で日立と激突 鉄道大手メーカー各社参戦で「戦国時代」に

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ベルリンにあるボンバルディア鉄道部門本社。カナダ企業というイメージが強いボンバルディアだが、鉄道部門は欧州を拠点とし、本社機能もドイツにある。英国にも工場を持ち、英国向けの車両は英国内で製造される(筆者撮影)

だが、大元をたどれば英国のボンバルディア工場は、英国国鉄の車両を独占的に納入してきた国営企業がベースになっているのだ。現在は開かれた市場になっているとはいえ、地場に根付いた強みがボンバルディアにはある。

一方で、欧州市場では後発の日立製作所も、英国北部ニュートン・エイクリフに新工場を建設、都市間輸送を担うIEP(Intercity Express Programme)用の新型車両を製造する拠点としている。同社はこれまで、山口県下松の同社工場で製造した車両を船積みで輸出してきたが、輸送にかかる費用や時間がネックとなるため、欧州での市場開拓を進めていく上では現地工場の建設が必須条件だった。

建設計画の途上では、外国企業の参入による英国民の雇用機会減少などを危惧する反対の声などもあったが、英国工場では現地採用を中心とするなど、周辺地域の雇用機会拡大を打ち出し、英国民の信頼を得た。新工場は2015年に操業を開始し、英国内向けの車両を製造・出荷している。

日立製作所の新型特急列車、IEP用800系車両。老朽化した既存の特急列車を置き換える目的で製造されている(筆者撮影)

日立はその後、イタリアのアンサルドブレダを買収したことで、欧州大陸側にも工場を持つことになり、大陸での販路拡大はもちろん、英国工場の生産能力が逼迫した際に不足分をカバーすることも可能となった。実際、IEP用新型車両の製造は、通常はイタリアや大陸向けの車両を中心に製造している旧アンサルドブレダのピストイア工場でも行っている。

新工場建設するほどの需要はある?

しかし、シーメンスは英国内に工場を持たず、英国向けの車両についてもドイツのクレフェルト、もしくはオーストリアのウィーンにある自社工場で製造し、英国まで輸送していた。同社はこれまで約3000両もの車両を英国へ納入した実績を誇り、現在はロンドンとその近郊を走るテムズリンク、サウスウェスタン・レイルウェイなどから、近郊型車両「デジーロ・シティ」の大型受注を抱えている。現地工場の建設に踏み切ったのは、英国における競争力をさらに高めるためだ。

しかし、英国という限られた市場において、新工場を建設するだけの需要が今後も見込まれるのだろうか。現在、英国内で受注が予想される案件としては、老朽化したロンドン地下鉄車両を更新するディープ・チューブ・アップグレード・プログラム、ロンドンの新交通システムDLR車両の更新および輸送力増強のための追加増備、サウスイースタン鉄道およびウェールズ&ボーダーズ鉄道の近郊型車両更新、そして高速鉄道の2期計画路線「ハイスピード2」向けの中・高速車両だ。

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