長期金利、望みもしない過剰な低金利に? 市場動向を読む(債券・金利)

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つまり、米金利市場で過去1年間に進行してきたのは、欧州債務危機がもたらした「米国資産への逃避」によるプレミアムが長期フォワード金利から剥落(つまり金利は上昇)するプロセスだったと言える。であれば、これから先、長期フォワード金利は、短期的な変動はあっても4%台後半という水準から極端には乖離しない可能性が高い。

一方、長期フォワード金利要因とは別のもうひとつの米長期金利押し上げ要因は、市場での利上げ観測の強まりであった。

利上げ観測のオーバーシュートも要因

中央銀行の設定する政策金利水準は、一般的には、政策金利の変動は短期的な景気循環を反映したものになると考えるべきである(短期的といっても、数年スパンのものだが)。今回は、景気の回復基調という景気の循環的な側面に加えて、5月にバーナンキFRB議長が年内の量的緩和縮小開始を強く示唆したことが、市場での利上げ織り込みを強力に後押しした。その後、サマーズ元財務長官が次期FRB議長の有力候補として浮上したことも、市場での織り込みを一段と加速させる結果となった。

実際、9月にサマーズ氏の指名辞退が報道されると、短期金利先物の価格は急騰した(金利は低下)。つまり、FRB議長の交代で金融政策が大きく変わるとの思惑によって利上げ観測がオーバーシュートしたのが、8月から9月にかけての動きであったと言えよう。

9月上旬に10年債金利で3%に到達したのは、このように、「長めのフォワード金利の適正水準への回帰プロセス」と、「市場での利上げ観測のオーバーシュート」とが組み合わさった結果であったとみるのが妥当である。

とすれば、今後については、「次期FRB議長の人選」「量的緩和縮小開始の有無」という材料だけで、単純に再び10年債金利が3%まで上昇するということにはならないだろう。少なくとも、利上げ観測について言えば、「サマーズ・プレミアム」がフルに復活することはないわけであり、実際に将来、大幅な利上げが実施されるのであれば、そのためには物価の上昇や成長加速といったファンダメンタルズのそうとう強い裏付けが必要である。

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