グーグル中国攻略の要、グーグル副社長、カイフ・リー氏を直撃!

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--企業の多くは中国の雇用流動性の高さが悩みです。グーグルは?

もちろん辞める人はいますが、離職率はかなり低い。グーグル全体の平均よりも低い。たとえばシリコンバレーの企業では離職率はざっと1割といいますが、私たちのところではそれよりもはるかに低い。

--カイフ氏自身もグーグルに魅力を感じて移籍しました。古巣にとっては腹立たしい出来事だったようですが、移籍の決め手は。

確かにマイクロソフトの幹部は非常に怒っていましたが、よくいわれる「バルマーがいすを投げ付けた」というエピソードは私に対してではありません。同時期にグーグルに移った別の人です(笑)。グーグルにはイノベーションのためのすばらしい環境があり、聡明な仲間がいる。それから中国とかかわりの深い任務だったのも魅力でした。一人の在米華人として、中国でスタートアップの事業に携われるというのは光栄なことです。そしてグーグルは地域や従業員に権限を与えてくれます。中国事業についてはすべて中国の人間で決めることができます。

--マイクロソフトのMSNも含め、米国のネット企業は軒並み中国で苦戦しています。

現地のチームに権限を与えていないからです。製品開発でも営業でも、国によって事情はさまざま。米国で成功したモデルを単に言葉を変えて持ち込んでも失敗します。それから長期的視野がない。半年で利益を出せというやり方は中国のような大きな市場では無理です。まず現地に合った製品を作る。ユーザーを増やす。その後にやっと広告収入がついてくる。この順序はひっくり返せません。だからエリック(・シュミットCEO)は「5000年の歴史を持つ中国で、グーグルは5000年忍耐強くやる」と言ったわけです(笑)。

--現時点で中国事業から利益は出ていますか。

国ごとの収益状況は開示していません。しかし百度のシェアと彼らの収益を見れば、われわれがどの程度得ているか推測できるでしょう。

--中国では当局が情報統制に絶大な権限を握っています。「世界中の情報を整理」というグーグルの使命は、中国でも実現できますか。

それについては多くの記者に問われました。法の許す範囲でユーザーに情報を提供する。これがグーグルの原則です。国によって法が異なる以上、グーグルが表示できる検索結果も異なるのは仕方がありません。また、プライバシー権の問題も国によって異なりますから、中国では(ストリートビューのような)一部のサービスは提供できません。ただ、google.cnの検索は使用するサーバーが中国にあるので現地の法律に従いますが、米国にサーバーを置いているgoogle.comは米国の法律に準じます。実は中国のユーザーはどちらも検索できるのです。一方は接続状況がやや不安定ですが。

--グーグルが中国で発展を続けるために、重視している技術開発分野は何でしょうか。

ロボット翻訳に期待しています。現在の精度はまだ人間による翻訳に比べ大きく劣りますが、ツールとしては非常に有望です。この精度が高まれば、中国のユーザーは英語がわからなくても、グーグルを通して世界の情報に自由に触れられる。そうなれば中国語のネット空間はもっと広がるのです。

李 開復
1961年台湾生まれ。72年に米国移住、米コロンビア大学卒業、カーネギー・メロン大学でコンピュータ科学博士号取得。アップル、SGI、マイクロソフトを経て現職。妻子を米国に残し北京で働く毎日。

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