TGV遅延で仏国鉄トップの「神対応」が話題に 車内の乗客に自ら謝罪、異例の「逆走」も指示

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事実、TGVが緊急停車した前日の1月15日、ペピ社長は社員に対し、列車遅延をゼロにする目的で「H00」という新プランを提示した。Hはフランス語で「時間」を意味し、1秒の誤差なく列車運行するという意味だ。たとえば、15時02分発の列車がある。これまでは、15時02分59秒までは定刻という認識だった。これをあらため、出発・到着ともに誤差10秒以内におさめるという。

定時運行率90%を目標とするTGV。2017年の乗客数は前年から800万人の大幅増(撮影:Joe Briand)

SNCFによる調査の結果、3分遅れで出発した列車が、終点に5分以内の遅延で到着できる確率は30%しかない状況が判明した。現在、SNCFが定時運行する列車の割合は78%にすぎない。さらにいうと、昨年12月におけるTGVの定時運行率は72.6%にすぎなかった。これを、2018年には90%まで引き上げるのが目標だ。そのために今後3年間で1億5000万ユーロ(約203億円)を投資する。乗客に対しては、列車の運行状況をより正確に伝えていくという。

広報担当はペピ社長の行動に対し、次のように締めくくった。「今回の社長の行動は、彼がその場で判断し、起こしたもの。まさしく、社員の模範となる姿でもあった。乗客の利便性を向上させる姿勢――それは、弊社のすべての従業員に求められているものだ」

上層部がシャツを汗水で濡らすのはまれだ

ペピ社長の行動について、SNCFで車掌、運転士として勤務する5人に話を聞いた。そのうち、4人は好意的だった。「彼の行動は正しい。乗客から激怒されるリスクもあった。だが、彼はひとりで立ち向かった」。

ただ一人、フランス第4の都市、トゥールーズで普通列車の運転士をする30代の男性は、こう答えた。

「正直いえば、同僚は彼の行動にあまり反応を示していない。上層部がシャツを汗水で濡らすのはまれなことだ」

つまり、彼が言いたいのは、社長をはじめ上層部が現場に姿を現し、苦しい仕事に従事する機会は少ないということ。ただ、彼はこう付け加えた。「高速線を戻る選択をとり、遅延を避けたという点は全員が評価している」。

今回のTGVの大幅遅延は飛び込み自殺が原因だ。SNCFにすべての責任を押し付けるのは酷すぎる。それでも、状況はどうあれ、運行会社のトップであるペピ社長が乗客の矢面に立ち、謝罪と説明を行ったという事実をわれわれ日本人は記憶しておくべきだ。

JR信越線のトラブルを受けて12日夜に開かれた緊急記者会見。そこで見られたのは、JR東日本新潟支社の幹部が横一列に整列し、頭を下げるというおなじみの光景だった。

佐藤 栄介 ジャーナリスト

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さとう えいすけ / Eisuke Sato

青山学院大学でフランス文学専攻。デパート、商社勤務を経て、2012年から鉄道専門誌編集部所属。大学在籍時の南仏ニース留学経験を生かし、アルストム車両製造工場(ラ・ロシェル)、SNCFテクニサントル(パリ東)など、フランス取材に強みを持つ。パリ・サンジェルマンFCの熱狂的ファンでもあり、ヨーロッパ取材時には欠かさず試合に通う。

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