山村を消滅から救う「小水力発電」とは何か 身近な再生可能エネルギーの意外な可能性

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小水力発電は、全国の数千カ所で事業化の可能性があります。しかも今は、FIT(固定価格買取制度)がありますから安定的な売電収入が見込めます。

前述のように小水力発電は出力1000kW以下の規模ですが、全国で合計すれば毎年1500億円以上の売電収入が見込めると試算しています。

これは、日本全体の電力消費量からすれば微々たるものにすぎません。でも、これだけの電力があれば、小水力発電を行っている足元の山間地の需要は満たすことができます。山間地は電力の面で自立できるわけで、地域にとっては十分に大きな電力だといえるのです。

小水力発電事業を進めるにあたって、技術や資金面で外部から協力を受けることも必要になりますが、地域活性化のためにはいかに地元が主導権を握るかが重要であり、地元を含めた主体形成がカギとなります。

先述の石徹白地区では、発電事業のために住民が農業協同組合を結成しましたが、それ以外にも、地元土建会社が小水力発電事業を立ちあげる例や、村が事業主体となる例、土地改良区が農業用水を使った例、リタイア移住した事業家がリーダーとなっている例……などさまざまなケースがあります。

山村の土建会社は、地元インフラ維持のためにも欠かせない存在なのですが、厳しい事業環境下にあります。今後生き残りを図るためにも、小水力発電事業で安定した収益源を得ることが効果的な経営戦略となります。そもそも、発電所の建設工事や災害を受けたときの復旧工事など、小水力発電では地場の土建会社の出番が多いのです。

また土地改良区では、農家の高齢化と農家数減少により、年々維持管理費負担が重くなってきています。小水力発電事業で収入を得ることができれば、この負担を軽減し、地域農業の持続性を高めることができます。

いずれにしても地元主導で進め、利益を地元還元できることが重要であると私は考えております。このことが、山村など地域を維持することにつながります。

山村を維持することが日本を強くする

人口減少時代のなか、山村は維持できなくても仕方ないのではないかといった意見もあるようです。

でも私は、山村を失うことは日本全体にとって取り返しのつかない大きな損失であると考えています。よくいわれる山林保全機能のほか、山村には都会にはない「人を育てる」という機能があります。見過ごされがちですが、「山村の知恵」といったものがこれからの日本にとってかけがえのない宝になります。

単に農山村にとどまらず、強靭な日本をつくるためにも小水力発電が必要だと思うのです。

小水力発電導入の可能性のある地域の人々、地方創生の関係者、自治体関係者、参入を考えている企業の方はぜひ一度真剣に導入の可能性を考えていただきたいものです。

また、温暖化対策の面で日本は世界に遅れを取りつつあるようですが、温暖化対策・エネルギー問題の面からも、古くて新しい再生可能エネルギーである小水力発電のポテンシャルに目を向けていただきたいと思っております。

中島 大 全国小水力利用推進協議会事務局長

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なかじま まさる / Masaru Nakajima

一般社団法人小水力開発支援協会代表理事。1961年生まれ。1985年、東京大学理学部物理学科卒業。株式会社ヴァイアブルテクノロジー取締役などを経て現職。その間、分散型エネルギー研究会事務局長、気候ネットワーク運営委員などを歴任し、小水力利用推進協議会、小水力開発支援協会の設立にも参画する。現在、全国各地の小水力発電事業のサポート、コンサルティングなどを行っている。主な論文・著作に「転換期に来たエネルギー問題」(『経済セミナー』1994年11月号)、「低炭素革命に必要なエネルギー制度設計」(『経済セミナー』2008年9月号)、自治労自然エネルギー作業委員会報告書『エネルギー自治の実現を目指して』(共著、2005年4月)、連載「地方自治体の地球温暖化対策」(共著、『地方財務』2008年4月号~2009年6月号)などがある。

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