家賃滞納が今の日本で増えている深刻な事情 背後には貧困の連鎖、親子の断絶も
太田垣氏がここまで真摯に滞納者と向き合う理由は、冒頭にあるとおりだ。太田垣氏自身、家賃支払いにも苦しむ極貧時代を送った経験があるからである。竹田城城主の太田垣家の末裔として裕福な家に育った太田垣氏は見合いで病院経営者と結婚。何不自由ない生活を送っていたが、子どもが生まれてすぐに夫の不倫が発覚。6カ月の息子を連れて離婚した。
世間体を気にする実家での生活に耐え兼ね、自立はしたものの、シングルマザーにできる仕事は少なく、生活はかつかつ。そこで司法書士の資格取得を思いつくのだが、それまで法律を勉強したこともない身には容易なことではない。
家賃と勉強のための費用を払うと残りが3万円。それで食費、光熱費、雑費を賄い、夜11時から夜更けまで、夏には38度にもなる部屋で勉強をしたという6年間は長く、苦しく、通勤途中で何度もこのまま電車に飛び込んだら楽になれると思った。
母の日に花束を送ってくれる女性
5回目の挑戦で資格を取得したが、シングルマザーを雇う事務所はなかった。最初の1カ月は無給という条件で職を得たものの、収入は相変わらず少ない。そこで思いついたのが不動産会社への営業だが、いちばんおいしい仕事である登記はほかの会社に頼んでいることが多く、いくら回っても仕事が取れない。そんな時に家賃滞納に困っている会社と出合い、やったことのない明け渡し訴訟に携わったのが今につながった。
そうした経験から、太田垣氏のシングルマザーなどの困窮者に向ける目は優しい。数は多くはないが、そうしたかかわりが功を奏したこともある。毎年、母の日に送られてくる花束の1つは、かつて支援した女性からだ。彼女は、親が認めぬ結婚後、3人の子どもをもうけたが、夫が働かないうえ、薬物使用で逮捕され、家賃が払えない状態に陥っていた。
この女性は夫の逮捕直後に離婚し、太田垣氏の助言で親に頭を下げて滞納分を払ってもらい、母子のシェルターに身を寄せた。その後、働いて自立できるようになったそうで、太田垣氏との出会いが転機だったとそれ以来花が届くという。
滞納に至る無駄遣いを見直し、引っ越しをして生活を立て直すべき、とアドバイスした男性から数年後に「ようやく正社員になれました」と手紙をもらったこともあるという。親身のアドバイスが人を変えることもあるのだ。
とはいえ、世の中には滞納者は多く、住宅に困っている人も減ってはいない。太田垣氏は日本には金銭教育がないことを指摘し、身の丈にあった暮らしを考える必要性を説いている。また、自分ができることとして、「R65+」という高齢者が賃貸を借りやすい仕組み作りにかかわっている。いずれはシングルマザー向けの基金もと考えているそうである。
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