「医師とメディア人」二足のわらじを履く理由 あの英誌「ネイチャー」が選んだ日本人女医
私が執筆した記事に、厚生労働省で発表された子宮頸がんワクチンの副反応に関する動物実験の結果に疑念を呈したものがあるが、これについて、研究班の主任研究者である元大学教授から名誉毀損で提訴されてもいる。
本来、科学の問題は科学の領域で議論すべきだが、かつて英国でも科学に対する武器として法律が用いられることが問題になった。特にベストセラー『代替医療のトリック』の著者、サイモン・シン氏に対し、全英カイロプラクティック協会が起こした名誉棄損訴訟が、科学の議論を法律によって封殺しようとしたとみられ、これがきっかけとなって、2013年に名誉毀損法が改正された。そのあたりの事情が今の日本と似ているのかもしれない。
反対論者に冷静に対応した
――2015年10月に始まる一連の記事は、医師ならではの科学的な視点が生かされている。海外にはどのように発信したのか。
村中:2016年11月に米ウォールストリート・ジャーナル紙に寄稿したほか、12月には外国人記者クラブで、2017年6月にはロンドン大学でも講演を行った。
外国人記者クラブの会見では、ワクチン反対派のメディアから「子宮頸がんワクチンの薬害を証明した」という日本人研究者による英語論文についての質問もあったが、評価の指標が客観的ではなく、エビデンスとして十分ではないと答えた。反対論者にも冷静に対応した様子がネットで配信されており、マドックス賞検討委員会メンバーの目に留まったようだ。
――子宮頸がんワクチン反対運動は、日本発で海外に波及したといわれるが。
村中:子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)は性交渉を通して感染するため欧州では保守系カトリック、米国では福音派キリスト教(ワクチンを含むすべての標準医療に否定的)と結び付くなど、宗教色が濃いのが特徴。しかし、生涯のパートナーがただ1人であっても感染のリスクはある。子宮頸がんワクチン問題は、道徳の問題ではなくリプロダクティブヘルス(性と生殖に関する健康)の問題だ。一方、日本と海外で共通しているのは、反対運動の中心が子どもたちではなく母親であることだ。
また、欧米ではいわゆるウェイクフィールド事件※2 によって、麻疹、風疹、おたふく風邪を防ぐMMRワクチンで自閉症になるといった誤解が広まり、いまだに信じている人もいる。日本ではMMRワクチンによって起きた無菌性髄膜炎事件以降、ワクチン薬害の問題に関して海外とは別の流れがある。
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