自民党は末期的症候群 「パンと見せ物」の政治だ--片山善博・慶應義塾大学教授
--政策面で、福田政権は成果を残しましたか。
本質を突いた取り組みは行われていない。本質とは何かというと、官僚機構というマシンを改良することです。そのマシンがボロボロになっていることが最大の問題です。
福田首相は例えて言えば、官僚機構という自動車の運転手ですが、その自動車のエンジンがボロボロで、まったく進まない。小泉元首相はマシンの改良に手を着けようとしたけれどもできなかった。安倍前首相は年金問題の解決や公務員制度改革など、自分が走りたい方向については一生懸命指示した。しかし、エンジンがボロボロなのに、ブレーキだけはやたら強力。安倍氏は疲れ果てて辞めてしまった。
--霞が関改革についての、政治家の意識はどうでしょうか。
今、総裁候補に名前が挙がっている人からは、マシンの改良をしなければという強い意識が感じられない。民主党は政権獲得への強い意欲は感じますが政権を取った後、どうなるのでしょうか。民主党のマニフェストを実行しようと思ったら、今のマシンでは無理。しかし、マシン改良のスキルと力量はあまり感じられない。
--安倍前首相は、渡辺喜美衆議院議員を行政改革担当相に据えて、公務員制度改革に早期から取り組みました。福田政権は安倍前首相から改革を引き継ぎました。
安倍前首相にはマシンを替えなければならないという意識はあった。最後には公務員制度改革法を通しましたが、せめぎ合いの中でくたびれ果ててしまった。法案は通ったものの、成就にはおそらく10年くらいかかる。その間に何も前に進まない普天間基地移設問題のような状況になるかもしれない。
--歴代首相の手法に問題があるのでしょうか。
簡単にやれることはあります。総理は各大臣を自分で任命できるのですから、官僚の天下りや、それを前提としたキャリアの人事システムを変えたいという志と力量を持った人を任命すればいい。ところが、自分で任命した大臣が役所に入った途端に、役所の代弁者のようになって、抵抗勢力の片棒を担ぐことをしている。
最近の例では、厚生労働省の外郭団体で、「私のしごと館」というのがありました。渡辺行革相はあんなものは、いらないといった。舛添要一厚生労働相は大臣になると口が重くなり、揚げ句の果てに必要だと言い出した。福田首相が「無駄ゼロ作戦」を遂行する決意を持っているのであれば、「私のしごと館」などは、いの一番に廃止すると言わなければいけなかった。そのときに大臣が役人の片棒を担いだら、クビを言い渡せばいいんです。そうすれば、福田首相は国民の支持を集めたはず。それをしないから、自ら任命した冬柴鐵三国土交通相が道路特定財源を食いものにする同省の役人を弁護したりするのです。
--片山さんは地方自治の現状も憂いておられますね。
地方分権改革も、マシンを改良しないまま始めたものだから、全然うまくいっていない。分権改革は総務省を中心に進めていますが、権限がなくなるので、本当の改革には総務省が実はいちばん反対なのです。
たとえば、住民の代表である議会の権限を強くすることは、総務省としては絶対に嫌なのです。本来、重要な政策は住民投票で決めればいいのですが、総務省としては好ましくない。各省の権限を委譲させる相手は首長であり、首長を強くするというのが総務省の考える分権です。そして、首長の下には総務省の若手官僚を送り込む。これは戦前の旧内務省からの一貫したやり方です。