スクエニがTOBを撤回、テクモ争奪戦の深層

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スクエニがTOBを撤回、テクモ争奪戦の深層

9月4日午後、日本のゲーム業界で久々に激震が走った。ゲームソフト老舗のテクモが、同業のコーエーと経営統合に向けた協議に入ると発表したからだ。

その予震は発表の6日前(8月29日)に起きていた。テクモに対してスクウェア・エニックス(スクエニ)が株式公開買い付け(TOB)を提案。友好的TOBとするため、賛同意見の表明を前提条件としていた。その回答期限が4日。つまり、テクモ・コーエー連合の発表はスクエニに対する「拒否回答」と裏合わせであったため、二重の意味で大きな注目を集める格好となった。

スクエニの和田洋一社長は、友好的手法を選んだ理由について、4日午前中の時点で「M&Aは空中戦なので、交渉が始まると相手方の意思確認は不可能。ゲーム会社は開発者が最大の資産であり、それが流出してしまうと意味がない。交渉に入る前に開発陣の気持ちを確認したいと思った」と話していた。だがその数時間後、テクモから「お断り」を告げるファクス1枚が届く。事態は意外な方向に動いていた。

有力幹部との係争 社長辞任で株価下落

そもそも今回の争奪戦の発端は、テクモにおける「内紛」にあった。

同社は売上高120億円、総資産256億円(2007年12月末)の規模ながら堅実経営で知られる。自己資本比率は8割と好財務でキャッシュリッチ。市場関係者の間では以前からM&A対象の有力候補とみられていた。ただ、創業者の故柿原彬人氏は存命中から他社との統合に消極的。同氏が18年がかりで口説き入れた旧日本興業銀行出身の安田善巳社長(06年就任)も基本的にその路線を踏襲しているようにみえた。

しかし、今年5月に思わぬ事件が勃発する。主力タイトル「デッド・オア・アライブ(DOA)」のプロデューサーとして知られた板垣伴信氏が、「DOA4」開発における成功報酬の支払いなどを求め会社を提訴(現在も係争中)。同時に「声明文」と称した文書を内外メディアに流布し“情報戦”を繰り広げる。

これで開発体制への影響が危惧され、5月末に1100円前後だった株価も除々に値を下げていく。さらに8月、安田社長の「一身上の都合」による辞任が発表され、経営の先行きへの不安も加わり、一時は600円をも割り込む始末。テクモは、彬人氏の二男である柿原康晴会長(38)が社長を兼務し、開発体制も含めた従来路線に変化がないことをアピールしようとしたが、スクエニのTOB提案はその矢先だった。

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