赤字が膨らむエルピーダ、大逆風下での勝ち残り宣言

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赤字が膨らむエルピーダ、大逆風下での勝ち残り宣言

半導体DRAMを製造するエルピーダメモリが、急きょ9日に事業説明会を開いた。市況の悪化と株価下落に対応したものだが、1カ月前に第1四半期の決算発表を行ったばかりだ。

萩原俊明CFOによると「第1四半期に市況改善の兆しがあり、それが第2四半期も続くと見込んだ。だがスポット価格は逆に20~25%という最近の四半期では異例の下落率で推移した」。これが誤算となり、上半期の営業赤字は300億円超に達する見込み。同日、本拠の広島工場で9月中旬から約1割の減産を行うことも明らかにした。

エルピーダは1999年にNECと日立製作所の合弁で発足し、2003年に三菱電機からも事業を譲り受けた日本最後のDRAM企業。増産路線を疾駆しライバルを抜き去り、今や世界3位につける。走り続けてきた同社にとって減産は今回が初だ。

“積極経営”で鳴らす坂本幸雄社長も「08年後半の出荷台数はパソコン1・4億台、携帯電話端末機6・1億台と前半並み程度。DRAM不況が2年も続くことなど、従来なかった」とさすがに市場見通しについては慎重だった。設備投資も「今やるべきことは増産投資ではなく回路線幅の微細化投資」とした。

再編なき淘汰の波

昨年来、DRAM業界には逆風が吹く。米マイクロソフト社の新OS(基本ソフト)「ウィンドウズ・ビスタ」登場に期待したパソコン向け、北京五輪特需を見込んだデジタル家電向けで、相次ぎ目算が外れたからだ。供給能力を増したものの、需要が期待ほど増えなかったことから、極度の供給過剰となった。

このためパソコン向け主要製品のDRAMスポット価格は、07年初めから1年で8割以上も暴落。最大手の韓国サムスン電子を除き、同じくハイニックス半導体や独キマンダなど、主要8社は相次ぎ赤字転落。エルピーダも例外ではなく、07年度は約250億円の営業赤字に陥った。

坂本社長自身、足元の厳しさは認めるが、中長期の視点では強気姿勢を崩さない。

「パソコン向けや携帯電話端末機向けで当社より安値で販売している韓国企業がある。だが、それは製造設備の減価償却に10年もかける中国製。最初こそコスト競争力があるが、やがて5年償却の日本製や約6年償却の台湾製にコスト競争力で負ける。目先の負担を軽くした安値販売は、麻薬のようなもので長続きしない。そんな競争相手は怖くない」と、事業説明会では不況下の“勝利宣言”とも取れる話しぶりだった。

同社は06年に台湾の力晶半導体(パワーチップセミコンダクター)と台中市で、計画総額1・6兆円もの合弁会社レックスチップエレクトロニクス(レックス)設立で合意。今年8月には、中国の蘇州ベンチャー投資集団と、江蘇省蘇州市に計画総額約50億ドルの合弁構想を発表した。台湾のレックスは「コスト競争力を武器に第1期工場は4~6月期で損益分岐点に達した」。中国の合弁計画に関しても「非常に好条件で契約できた」と自信をのぞかせた。

業界の再編・淘汰の可能性について「次の四半期(10月~12月)に大きく動く」ともほのめかす。ただし「当社にも『同業他社を買わないか』という話は数多く来る。だが、今はもう買収に乗り出す企業などあるまい。約2年のDRAM不況で各社とも買収資金が乏しくなった。その意味で『再編』は起きない」と断言。迫り来るのは「淘汰」との見立てだ。

厳しい状況に追い込まれる中、海外勢の中には自国政府に助けを求める動きもみられるという。はたして、未曾有のDRAM不況下、戦線離脱を余儀なくされる企業がどこまで出てくるのか。

(石井洋平 =週刊東洋経済)

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