(このひとに5つの質問)佐渡賢一 証券取引等監視委員会委員長
証券取引等監視委員会の新委員長に佐渡賢一氏が就任した。特捜検事として数々の経済事件の捜査に携わってきた経歴から、「市場浄化」の進展に期待する向きは多い。(『週刊東洋経済』8月11・18日合併特大号より)
検察現場派の切り札登場 不心得者には怖い存在に
1 証券取引等監視委員会のトップに就任しての抱負は。
ここの目的・役割ははっきりしている。持てる権限・権能を使って市場の公正を確保し、信頼性を向上することだ。(刑事告発など)犯則調査や課徴金など四つの権能を持っているが、それぞれの武器のよさを生かしながら、監視の実効性を上げたい。(市場関係者には)監視の目がつねに働いていることを意識させることが大事だろう。不心得者には怖く、一般投資家には心強い存在になりたいと思う。
2 検察時代には、証券市場をどのように見ていましたか。
市場を使った事件を捜査する際は、その裏側にある市場外での不正を暴きたいという気持ちが強かった。ここにきて感じるようになったのは、市場は生きているということ。だから、(警告としての)メッセージを早くに出すことが重要だ。委員会の取り組み方も工夫したい。たとえば、課徴金によって早期にメッセージを出し、本当に悪いやつは時間をかけて犯則でやるというのも考え方だ。課徴金は新しい制度ということで、慎重な姿勢をとってきたが、制裁機能を強めないといけない。
3 同じように証券取引等監視委員会をどう見ていましたか。
委員会発足前、証券取引に絡む大型経済事件をいくつか手掛けたので、取引の解明が困難なことはよく知っている。(検察にとって)いちばん面倒で基礎的なところを不断にウォッチし、すぐに(捜査に役立つよう)資料化できるわけだから、大変に評価していた。お互いの持ち味を生かして、大きな「枠」に迫ればいいのではないか。
4 印象に残る事件は。ハンナン事件は高い評価を受けました。
印象深いのはリクルート事件と東京佐川急便事件。リクルートでは(NTT会長の)真藤恒さんの取り調べを担当した。検察の関心事項を伝えたら、最初にしゃべってくれ、否認していた秘書にも「仕事を解除する」と申し渡し、(自供を)促してくれた。立派な経営者だと思いましたよ。ハンナン事件は最初、小さな不正から積み上げていくのが警察の方針だった。しかし、あのような事件はより幅広な構図を描いて立ち向かわなければ潰れると思った。全体が大きな詐欺・不正受給事件であるとの捜査方針で取り組み、それが成功した。
5 「国策捜査」批判など、検察には一部で批判もあります。
国民の声を受けて捜査するのが悪いとは思わない。捜査には必ずそういう面がある。鈴木宗男さんの事件もやったが、当時、外務省の不正を捜査しろという雰囲気があったわけで、調べればいろいろ出てくる。事実がないなら別だが、出てきた事実は間違いなく収賄を構成していた。
(書き手:高橋篤史 撮影:尾形文繁)
さど・けんいち
1968年司法試験合格、69年早大法卒。71年検事任官、97年東京地検刑事部長、2001年東京地検次席検事、04年大阪地検検事正。札幌、福岡の高検検事長を経て07年7月証券監視委委員長に就任。60歳。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら