5兆円の借金が圧迫「仏高速鉄道TGV」の運命 仏独車両メーカー統合で今後の製造どうなる

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9月26日に発表されたアルストムとシーメンスの統合は、関係者にとって、決して寝耳に水の話ではなかった。

すでに6月26日、SNCFとDB(ドイツ鉄道)が共催した晩餐会で、SNCFのペピ総裁は車両メーカーの統合に関し、「われわれはその動きを好意的にとらえている。なぜなら、ヨーロッパの産業には競合する中国や韓国、将来的にインドとも正面から立ち向かえるだけの十分な規模が必要と考えるからだ」と容認する発言をし、そして、近く何らかの発表があることもにおわせていた。

TGVを中心に統合を考えれば、新たに発足するシーメンス・アルストム社は、その製造をどう進めるのか疑問がある。すでに1年以上も前、2016年9月からSNCFとアルストム間で、次世代TGVのプラットフォーム(技術仕様)構築はスタートしている。

その進捗は順調で、今年末にもそのプラットフォームが決定するという。固まったプラットフォームに、あとから合流したシーメンスの技術者たちも簡単に同意し、協働して次世代TGVの製造を進めることができるのか――。この件をアルストム本社に問い合わせたところ、「統合に関する質問に返答するには時期尚早」との回答だった。

「アルストムがシーメンスを買収した」との発言も

一方、TGV製造工場などの現場レベルでは、一部で反応が異なる。発電・送配電事業の2015年の米GE社への売却以降、「単体で事業を継続していくには規模が小さすぎる」との声もあった。むしろ、今回の統合は、「アルストムがシーメンスを買収した」との好意的な見方さえある。

1981年9月、開業直後のTGVから下車するミッテラン大統領(©SNCF MEDIATHEQUE)

シーメンス・アルストム社のバランス――大株主はシーメンス、そして、取締役会メンバー11人のうち6人をシーメンスから任命――この事実が、高速列車に関する何かを将来、決定する際、どう働くのか非常に興味深いが、とりあえず現段階として、10月3日にブリュノ・ル・メール経済大臣は、「フランス国内のアルストムの工場は、1つも閉鎖しない」と明言した。

1981年9月22日、TGV開業の日。フランスに新時代の幕開けを告げ、プロジェクトを指揮したフランソワ・ミッテラン大統領が、開業記念のTGVから下車する姿はいかにも誇らしげだった。

それから36年。高速線に関する多額の借金が明るみとなり、車両メーカー統合の荒波も押し寄せる中、TGVはいかなる方向に進んでいくのだろうか。

佐藤 栄介 ジャーナリスト

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さとう えいすけ / Eisuke Sato

青山学院大学でフランス文学専攻。デパート、商社勤務を経て、2012年から鉄道専門誌編集部所属。大学在籍時の南仏ニース留学経験を生かし、アルストム車両製造工場(ラ・ロシェル)、SNCFテクニサントル(パリ東)など、フランス取材に強みを持つ。パリ・サンジェルマンFCの熱狂的ファンでもあり、ヨーロッパ取材時には欠かさず試合に通う。

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