締め切りの督促に対して文豪はどう応じたか

ドストエフスキーは逆ギレ

そのとおりかもしれない。確かに私事でかなりスケールの小さい話だが、酒を飲んだ後に書評を書いてもそこそこ書けるので、酒を飲まないで書こうと気合いを入れると、はかどらないことがよくある。じゃあ、飲むかと飲むと、気づくと寝ていて、朝になっているのだが。とにもかくにも、時間があるからといって文章は書けるわけではないし、期限どおりに仕事をこなせるわけでもない。

これは、おそらく誰にも共通する事実らしく、本書に収められている中では論文という異色の形態をとる「なぜ私たちはいつも締め切りに追われるのか」では資源配分モデルを使った解析の結果、我々が反省すべきは「早めにやっておけばよかった」ではなく、「もっと集中すべきだった」であると結論づけている。

本当に締め切りに間に合わないのか?

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とはいえ、疑問も浮かぶ。果たして彼らは本当に締め切りに間に合わないのかと勘ぐりたくもなるのだ。作家が締め切りに合わないというのは、もはや伝統芸能ではないのかと。おでんを食べて熱い熱い言うダチョウ倶楽部のようなものではないのかと。〆切間際に野坂昭如が失踪するのは日常茶飯事であり、文章から時々垣間見えるそうした野坂の姿も含めて読者は楽しみにしているのではないだろうか。

と思ったりするのだが、本当に書けない人が多いのだ。手紙や書簡など私的な文書も掲載されているが、二葉亭四迷は編集者に「頭の工合よろしからず、今度はどうしてもできませんでした――」と〆切を次号へ延ばすように訴え、その約十日後には「頭の工合よろしからず毎に違約して何とも申し訳なく――」と再び次号に延ばすように願う。どんだけ工合がよろしくないのか。

ドストエフスキーに至っては編集部からの催促の問い合わせに、現代で言うところの逆ギレ気味に返信している。『罪と罰』の終編を今、送れと言われるならそろそろ送れるが、それは読者のためにならない、次号は告知にして、その次以降の二号で掲載するのがこの長編には効果的だと説く。そういわれればそんな気もするけど、いかんせん編集部は判断すべき原稿を読んでいないのだから何ともいえないじゃないかという内容の手紙を送りつけているのだ。

頭がこんがらがる。「本当かよ?」と思いたくなる話の後にそれを補完するような別の作家の話が出てきて、読み手にフィクションとノンフィクションの間をさまよわせる。

漂いながら読み進めていくと、巻末の奥付までもが我々を試すではないか。発行日に最初の刊行目標日、確かに刊行できると思った日、本当の〆切と並ぶ始末。本の内容が内容だけに、お約束と言えばお約束だが、本当に最初の目標などあったのか、いやあったとしても遅れるための目標ではなかったのかなどと思いはめぐりにめぐる。一つひとつのエピソードも面白いので、気になる作家をつまみ食いしながら読んでも面白いが、最初から1冊を通して読むことで味わいが増す1冊かもしれない。

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