ドイツの高級新聞社が挑む「分断社会の是正」 メディアの力で社会の両極化は止められるか
また、複数の米国人ジャーナリストに大統領選の報道について聞いてみると、米メディアの一部は「国内の半分を十分に理解していなかったと感じた」と言われたという。
米国や英国では「社会の両極化」が発生していることが指摘された。ファイグル氏自身が「ドイツでも両極化が発生している」と感じていた。
そこで、米大統領選やブレグジット投票で明白になった「予想の不正確さ」「メディアが国全体の声を把握していない」「社会の両極化」に対処するために、今年2月、D17を立ち上げたという。
地方の声を全国へ
D17は3つの目的を持っていた。まず、地方ジャーナリズムの活性化だ。「メディアが大都市のことしかわからない」状態を防ぐためだ。これを「ハイマートリポーター」(「ホームタウンのリポーター」の意味)と「ウーバーランド」(「陸上の」の意味)で形にした。
「ハイマートリポーター」では、ツァイト・オンラインの記者が生まれ育った土地に戻り、現地リポートを書いた。通常、記者が地方に行って記事を書くとき、その土地の歴史などをほとんど知らないままに現地入りするが、現地出身の記者を送ることで、記者はその土地に住む人に特別の共感を抱き、よりよい記事が書けるのではないか、と思ったという。記者当人からすれば出身地に「特別の思いがあるはずだから」。
「ウーバーランド」用には全国各地の地元メディアに向けて書くフリーランスのジャーナリストに寄稿してもらった。地元メディアの記者やフリーランサーは通常、特定の地域に向けて書くことになるが、全国紙であるツァイトに掲載されることを前提に全国の読者向けに地方の記事を発信した。ツァイトにとって、初めての試みである。
意外なことが起きた。たとえば、ドイツ南部のある村で、政府が森林地帯を環境保護地域として指定しようとしたところ、地元住民が強く反対した。保護区に指定されると規則がたくさんできて、自由に指定区域を使うことができなくなることを懸念した。住民たちによる、大規模な抗議デモが発生した。大都市に住むジャーナリストからすれば、森林地帯を環境保護地区にするのはいいアイデアに思えた。しかし、地元住民からすればそうではなかったのである。
これを記事化したところ、ドイツの田舎の小さな村の出来事だったが、「トランプ米大統領の記事よりも、はるかに多くの人に読まれた」という。
ドイツの人口分布をみると、10万人未満の市町村に住む人が全体の70%を占める。ツァイトの編集スタッフはほとんどが大都市圏に住み、発想も大都市に住んでいることを前提としていた。しかし、実はこの70%にこそ、読者の大きなニーズがあったのである。
そこで、この70%の場所に記者を派遣し、原稿を書かせるようにした。「どんなアプローチをして、どんな表現を使うかについて事前に議論した」。外から突然やってきた記者が地元住民をインタビューし、「この田舎の村は何とすてきなのだろう」というような書き方はしないことにした。「地元住民にとって重要な問題を真剣にリポートする」ようにしたという。
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