メインバンクが仕掛けるM&A 優先株出口に悩む三洋電機、松下による買収は…
この優先株が発行されたのは06年3月。発行価格は1株700円で発行株数は4億2857万株。議決権のあるA種と議決権なしのB種の2種類で構成されるが、いずれも07年3月以降は1株当たり10株の普通株と交換できることになっている。これに対し、現在の三洋の普通株発行総数は18億7233万株。つまり、仮に3グループが保有する優先株がすべて普通株に転換されれば、その発行株数は一挙に3.3倍の61億5805万株余にも膨れ上がり、1株当たり利益が大幅に目減りすることになる。
08年3月末で依然残る3412億円の繰越赤字(単体ベース)の存在とも相まって、配当もままならない。株数が増えると仮に年間5円配を実施するとしても、その原資は約308億円。08年3月期の最終利益をすべて注ぎ込んでも足りず、09年3月期の会社予想純益350億円でも、その大半が配当に消えてしまう。要するに、優先株問題を解消しないかぎり、三洋の株主は「完全復活」の当然の果実ともいうべき復配にありつけないわけである。
「いくつかの解決策がある」。佐野社長は優先株問題の処理についてこう述べ、【1】普通株に転換してもらい市場で消化する、【2】自社による買い入れ消却、【3】第三者への譲渡--という三つの選択肢を挙げる。だが、40億株を超える株式を市場に放出すれば、既存株主が打撃を受けるばかりでなく、需給バランスが崩壊して株価は暴落、3グループにとっても損失となりかねない。普通株に転換して市場で売却するという最初の選択肢は、まず実行不可能だろう。
では第2の選択肢である買い入れ消却はどうかだが、これも現実的ではない。金融筋などによると、3グループ保有の優先株の価値は現在「5000億円以上」(証券大手)と試算されている。三洋にとっては10年超の利益が吹き飛ぶ計算で、新中期計画の最終目標である営業益1000億円と対比しても、その5年分にも当たるからだ。
となると、残る選択肢は第三者への譲渡か。
06年の優先株発行にあたって三洋は3グループとの間で株主間契約を締結、3年間の譲渡制限を課してきた。しかし、それも09年3月で効力を失い、以降、3グループは原則自由に保有株を転売できるようになる。三井住友や大和証券SBMC内部にはそれでも「せめて新計画が完了する11年3月までは保有を継続すべきだ」とする声も強いが、サブプライムローン問題で収益・財務基盤に瑕疵(かし)が生じているGSにとっては、「あと2年も待てない。一刻も早く処分して、投資回収を急ぎたい」(関係者)というのが本音。実現の可能性はある。
だが、仮にGSだけが単独譲渡に踏み切っても買い手にとっては潜在株比率で28%を保有するだけ。再転売してのキャピタルゲイン狙いならいざ知らず、経営権を握れるわけではない。かといって一括譲渡による5000億円以上のM&A商談となると、交渉だけでも難事業。それに単純譲渡だけで希薄化の問題が解決するわけでもない。
八方ふさがりともいえる状況を打開すべく、三井住友等が仕掛けているとされるのが、元は三洋と同根の松下との合併。それも、三洋のコア事業の一つを外部売却し、その資金で優先株をある程度買い入れ消却したうえでの合併というわけだ。これで松下側の負担も軽く済み、M&A交渉も円滑に進むと踏んだのだろう。
売却対象事業の「最有力候補」(事情通)と目されているのが、太陽電池ビジネスだ。三洋は「チャレンジ1000」で打ち出したコア事業への設備投資計画の中で、太陽電池領域には総額700億円を投入する方針を表明している。今3月期中に子会社である島根三洋電機に新ラインを増設し、太陽電池の基幹部品であるセルの生産能力を増強。11年3月期をメドに主力の二色の浜工場の敷地内での新工場建設も検討する。さらに海外のモジュール組み立て拠点なども拡充。クリーンエネルギーとしての関心の高まりを追い風に、グローバル規模でビジネス展開を加速させていく計画だ。
ただ、電力業界関係者などによれば太陽電池の巨大マーケットとして期待されている太陽光発電は設置コストがかさむうえ、1基で100万キロワット規模の発電電力量が得られる原子力発電やLNG火力などと比較して発電ロスが大きく、「今の技術水準では基幹電源として商業ベースには乗りにくい」(東京電力幹部)というのが実情だ。