年金の支給要件緩和に喜ぶ人、心配が募る人 「財源なき前倒し」に勝算はあるのか
というのも、年金制度に対して国民の多くが将来の制度崩壊を心配している状況では、とりあえずは10年間納付して受給資格だけ確保。後は自助努力で老後資金の形成をしたいと考える人が出てくるだろう。
本来、自営業者などの国民年金の場合、40年間の加入期間があるのだが、10年の加入に抑えておけば、公的年金制度のリスクを回避できることになる。これでは、国民年金の保険料納付率65%(2016年度)が、上昇する可能性はあまりない。50歳前後の人で、まったく年金に加入していないような人は新たに加入するかもしれないが、20~30代の人には逆の作用が働きかねない。
年金制度を信頼する人の割合は若者ほど低くなる。少子化に歯止めがかからない中で高齢化が進み、年金受給者ばかりがどんどん増えていく状態では「いずれ破綻する」と考えるのは当然のことだ。特に、日本の場合は国家の財政と年金制度、あるいは健康保険制度との結びつきが非常に強い。
今回の資格短縮は事実上見切り発車
そもそも今回の資格短縮は、民主党(現民進党)の野田佳彦政権時代に決まったものだが、付帯条件として消費税率10%の実現と同時に実施するものとされた。資格短縮のための財源を消費税増税の一部に充てるためだ。
ところがその後、政権を奪還した安倍晋三政権が、「社会保障と税の一体改革」を公約に掲げていたにもかかわらず、消費税率10%の実現を2度にわたって延期。そのため、資格短縮もなかなか実現しなかったわけだが、安倍政権は2016年の参院選に際して支持率アップ、次の総選挙勝利のため“公約”として、前倒しで資格短縮を実施すると宣言した。言い換えれば、今回の資格短縮は事実上、財源の当てもなしに見切り発車で実現させてしまったといえる。
安倍政権は、確かに消費税率を5%から8%に引き上げたものの、同時に法人税率を減税しているために、財政全体で考えれば、政権発足当初から大きくプラスにはなっていない。日銀による財政ファイナンスもどきの国債買い入れでなんとかごまかしているものの、いまや日本政府の財政は崖っぷちだ。
年金制度への信頼感がないために、老後に不安を抱く国民の個人消費は一向に回復しない。アベノミクスが開始して4年も経つのにいまだにデフレが続いている。
しかも、財政の累積赤字が1000兆円、GDP比200%という前人未到の領域に行きついている。日本の場合、財政が破綻すれば同時に年金制度、健康保険制度といった社会福祉のコアの部分も一緒に崩壊するということだ。
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