テレ東「池の水ぜんぶ抜く」が大ウケする理由 予算で劣る分、人気タレントには頼らない

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そして、「素人番組」と並んでテレ東が得意としているのが、他局が手をつけていないような意外な切り口の企画を実現させることだ。「池の水ぜんぶ抜く」はもちろん、7月10日に始まった新番組「液体グルメバラエティー たれ」などもその部類に属する。テレビの歴史の中で「グルメ番組」はこれまでに数限りなく制作されているが、「日本一おいしい『タレ』を決める」という奇想天外な企画は、今まで見たことも聞いたこともない。

テレ東の番組では、私たちの日常にある身近なものを題材としていることが多い。公園の池には水が張ってあるのが当たり前だと誰もが思っているが、その水を抜いたらどんな光景が見られるのか、というのがテレ東独自の「視点」のユニークさだ。「液体グルメバラエティー たれ」では、食材や料理ではなく、あえて調味料の1つにすぎない「タレ」にスポットを当てる。また、空撮映像を用いてさまざまな場所を紹介する「空から日本を見てみよう」では、文字どおり「視点」を変えて街並みや土地の魅力を再発掘している。

制約があるから生まれる斬新な企画

このような企画がテレ東で実現できる背景には「予算の制約で人気タレントが使えない」という切実な事情がある。タレントの「顔」で勝負できないからこそ、純粋に企画の内容で勝負するしかない。その制約の中で、斬新な企画が続々と誕生している。

「池の水ぜんぶ抜く」「モヤモヤさまぁ~ず2」などを手掛けるテレビ東京の伊藤隆行プロデューサーは、著書『伊藤Pのモヤモヤ仕事術』(集英社新書)の中で「民放4局は、テレ東の企画はパクっていいという暗黙のルールがあります」と書いている。大食い番組の例にもあるように、テレビ業界では、1つの企画がヒットすると似たような番組が他局でも次々に始まるというのはよくあることだ。「企画力」という部分においては、テレ東がそれだけ先進的だということだろう。

昨今では、YouTube、AbemaTV、Netflix、Amazonプライム・ビデオなど、地上波テレビ以外の動画メディアや動画サービスが台頭しており、その利用者も年々増えている。このような状況の下で、地上波テレビは改めてその存在意義を問われるようになっている。「地上波テレビでしか見られない」という特別な価値を持つコンテンツでなければ、他の動画メディアとの競争に打ち勝つことができない。

その点、独自路線を追求してきたテレ東には「企画力」という点で一日の長がある。結局のところ、地上波テレビでもそれ以外のメディアでも、面白いものを作り続けるところが支持される、という事実は変わらない。テレ東の好調を支えているのは、田原総一朗の時代から受け継がれている「企画力至上主義」というテレ東のDNAなのだ。

ラリー遠田 作家・ライター、お笑い評論家

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らりーとおだ / Larry Tooda

主にお笑いに関する評論、執筆、インタビュー取材、コメント提供、講演、イベント企画・出演などを手がける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)など著書多数。

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