マネー収縮加速、新興国などから資金巻き戻し 日本株も調整色、アジアで短期的波乱の可能性も
ドル資産からも資金流出
新興国からの資金流出の背景には、QE3の縮小観測がある。5─6月の相場急変の要因となった後、織り込みも進み、7月以降は市場もやや落ち着いていたが、縮小決定の可能性が高いとされる9月17─18日の米連邦市場委員会(FOMC)が近づいてきたことで、流動性縮小への不安が再燃している。
新興国から流出したマネーは経済が比較的堅調な米国に回帰するとの期待もあるが、現時点ではマネーは全体的な収縮傾向を強め、米市場でも株安・債券安が進んでいる。
上昇が止まらない米10年長期金利>は2.9%と2年ぶりの高水準。利回り低下を見込んでいた投資家がポジションの手仕舞いを迫られたほか、銀行の自己資本規制強化に向けた動きが、米国債への需要を減退させているとの指摘も聞かれた。
調査会社トリムタブス・インベストメント・リサーチの調査によると、8月に入って債券ミューチュアルファンド、および上場投資信託(ETF)から総額197億ドルの資金流出が明らかになった。同統計は8月1日から16日までの12営業日をカバー。7月全体の流出額の148億ドルをすでに上回った。
米ダウ<.DJI>は今年初めて4営業日続落となっている。「米経済は底堅いと言ってもそれほど強いわけではない。QE3縮小が経済正常化への生みの苦しみをもたらすのは避けられない」と第一生命経済研究所・首席エコノミストの熊野英生氏は指摘する。
アジア危機再来の可能性は低いか
ただ、アジア通貨危機が再来するとの見方は現時点では少ない。通貨危機の後、アジア新興国は経済実態と相場のかい離を生み出していたドルペッグ制から変動為替相場制に移行。チェンマイ・イニシアティブによる通貨スワップやアジア債券市場育成イニシアティブ等の地域金融協力体制なども敷かれている。
また、アジア新興国経済の減速は、最大の輸出先である中国の景気減速が背景だが、一部の経済指標では持ち直しの兆しもある。さらに中国にとっての最大の輸出先である欧州も循環的にせよ底入れをみせ始めている。
JPモルガン・アセット・マネジメント、エコノミストの榊原可人氏は、中国の景気減速やそれにともなうコモディティ価格の一服などで新興国ブームの時代は過ぎたとしながらも、1)国(ソブリン)のレバレッジは総じて低い、2)大幅な経常赤字は一部の国のみ、3)財政収支は一般的に先進国より健全、と指摘する。
国際通貨基金(IMF)のデータによると、新興国・途上国の対外債務は対GDP比で2000年の36.4%から2012年は24.4%に減少。外貨準備は2000年時点は対外債務の半分程度だったが、2012年時点では20%程度上回っている。
榊原氏は「新興国を一括りにするのは危険だが、財政面などからみて危機を起こすぜい弱性は80─90年代より確実に低くなっている」との見方を示している。
(伊賀 大記 編集:田巻 一彦)
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