乗り継ぎ時の「初乗り運賃」加算はおかしい 東京の鉄道は今こそ「ゾーン制」を採用すべき

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首都圏の交通費の割高感を最も実感しているのは、就活生であろう。日頃、サラリーマンも学生も定期券で自宅と勤務先、学校を往復し、ときたまそれ以外の経路を使う程度であれば、あまり割高感を意識しない。しかし、就活中の学生は足しげく会社訪問をしなければならず、またその時期はアルバイトもできないので、なおさら交通費の高さが身にしみる。

筆者が担当する立教大学法学部の「消費者法ゼミ」で2015年2月に就活中の学生の交通費を調査し、何らかの対策が講じられるように「就活学生向け鉄道運賃割引制度の提言~鉄道の公共性の観点から~」と題する提言書を与党自民党・公明党の国土交通部会長に手渡し、陳情を行った。関東在住の大学4年次学生42人に対し行ったアンケートに基づくものだ。就活でかかった交通費が5万円以上と答えた学生は21%を超え、何らかの措置が必要かという質問には、「とても思う」「思う」を合わせて88%に及んだ。

「ゆりかもめ」の運賃は学生に不満

学生の不満のなかで多いのはゆりかもめの運賃の高さだ。国際展示場で採用関連イベントが多いこともあるが、新橋駅から国際展示場正門駅まで380円(ICカード381円)かかる。国際展示場にはりんかい線で行くとこもできるが、これも高い。大崎駅から国際展示場駅へは330円(ICカード329円)かかる。どちらも他社線との乗り継ぎ割引はない。

若者だけではない。高齢者も増え、豊かな老後を目指すなかで文化的な活動も重要である。それには移動が必要だ。たとえば、「財布より定期落とすな北総線」といわれるほど有名となった北総鉄道・千葉ニュータウン中央駅から日本橋駅に出ようとすると、北総線、京成線、都営地下鉄を乗り継ぎ、36キロメートルで1130円(ICカード1120円)かかる(少額の乗り継ぎ割引後)。夫婦で往復すれば、4500円近い。この距離をたとえば小田急線だけで移動すれば420円(ICカード411円)だ。小田急電鉄の運賃がかなり安いということもあるが、こうした運賃格差を許容すべきと考えるのか、社会的に是正させるべきと考えるのかによって今後の方向性は違うだろう。

筆者は数年前に内閣府消費者委員会委員を2年間務め、鉄道運賃をはじめ公共料金の適正水準のあり方に関心を持ち、国土交通大臣等に建議を行ってきた。そこで感じたのは、日本では鉄道政策はあっても鉄道運賃政策は貧弱ということだ。運賃の通算化や共通化を進めようとすれば、逆に運賃が安く抑制されている小田急、東急、西武等大手私鉄の単独運賃値上げという可能性もある。消費者と事業者がウィン・ウィンとなる関係をどのように築くべきか、国民的議論が起こることを期待したい。

細川 幸一 日本女子大学名誉教授

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ほそかわ こういち / Koichi Hosokawa

専門は消費者政策、企業の社会的責任(CSR)。一橋大学博士(法学)。内閣府消費者委員会委員、埼玉県消費生活審議会会長代行、東京都消費生活対策審議会委員等を歴任。著書に『新版 大学生が知っておきたい 消費生活と法律』、『第2版 大学生が知っておきたい生活のなかの法律』(いずれも慶應義塾大学出版会)等がある。2021年に消費者保護活動の功績により内閣総理大臣表彰。歌舞伎を中心に観劇歴40年。自ら長唄三味線、沖縄三線をたしなむ。

 

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