あの北千住が「ヤンキーの街」を脱出したワケ 足立区は「大学の誘致」でブランド化を進める

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食べ残しは劇的に減り、肥満率の改善や体力向上にもつながっている。2011年に出版された『日本一おいしい給食を目指している 東京・足立区の給食室 毎日食べたい12栄養素バランスごはん』(アース・スターエンターテイメント)は7万7000部のヒットを記録した。

こうした取り組みは、給食を通じ、生産者や調理師など関係者に対する感謝やバランスよく食べることの重要性、栄養に関する基礎的な知識などを子どもたちに学んでもらいながら、おいしく感じる給食を提供したいとの思いからスタートしたが、子どもたちにはもちろん、小中学校に子どもを通わせる親にも好評のようだ。

いちばん気になる、価格の問題についても見てみよう。北千住の家賃相場は徒歩圏のワンルームで7万円程度、3LDKで12万円程度、マンション価格は築10年で坪200万円程度だ。かつての北千住を知る向きから見れば相当程度高いように感じられるかもしれない。

しかし、他地域との相対的な割安感や将来の街のポテンシャルを考慮すれば、まだ割安感がある可能性が高い。2017年地価公示では、駅前商業地である千住2丁目は坪当たり694万2148円と、前年比10.53 %増という伸びを示している。それでも、バブル期に当たる1980年後半から1990年前半には、坪当たり2462万8099円だったから、いまだ当時の3分の1程度の水準だ。

生活保護受給者世帯数は、いまだに増加中

ただ、課題もある。前述したとおり激減したとはいえ、足立区の犯罪認知件数はいまだ23区内で高い位置にある。また住民福祉を支える扶助費はその性質上たやすくカットできるものではないが、増加傾向が続くようだ。2017年2月に出された足立区の中期財政計画によると、「扶助費全体の約50%を占める生活保護費の増加率は鈍化しているとはいえ、受給者世帯数は増加し続けている」とされている。

背景には、高齢化の進行や、経済・社会構造の変化による家計収入が低い世帯の増加があると考えられる。この傾向は千代田区、港区、中央区など一部の区を除いて同様だが、この状態が続くようだと確実に区の財政を逼迫することになるだろう。

しかし、なにより北千住は下町風情が残る街並みと、新規投資が案配よくミックスされているのがよい。また、物価や家賃は、その立地からくる利便性に比して相対的に安いことも明らかだろう。なにより私にとって「愛せる街」であるこの街は、これから新居を検討する人にとって、有力な選択肢になることは間違いないだろう。

長嶋 修 不動産コンサルタント(さくら事務所 会長)

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ながしま おさむ / Osamu Nagashima

1999年、業界初の個人向け不動産コンサルティング会社『株式会社さくら事務所』を設立、現会長。以降、さまざまな活動を通して“第三者性を堅持した個人向け不動産コンサルタント”第一人者としての地位を築いた。国土交通省・経済産業省などの委員も歴任している。主な著書に、『マイホームはこうして選びなさい』(ダイヤモンド社)、『「マイホームの常識」にだまされるな!知らないと損する新常識80』(朝日新聞出版)、『これから3年不動産とどう付き合うか』(日本経済新聞出版社)、『「空き家」が蝕む日本』(ポプラ社)など。さくら事務所公式HPはこちら
 

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