大林組が配当より内部留保「貯蓄」に励む理由 ゼネコン各社は「冬の時代」への備えを進める

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1990年代のバブル崩壊後、多くのゼネコンは大量に仕込んだ不動産の暴落や赤字工事が追い打ちとなり、負債が一気に膨らんだ。その結果、各社は積み上げてきた内部留保を取り崩して損失処理に走り、財務体質の改善を図った。

今や首都圏では仕事に飢えることのない状況が続くが、受注産業である以上、デベロッパーやメーカーなどの民間の投資意欲の浮き沈みにより、工事量は大きく左右される。ゼネコンの自助努力だけで一定の受注高や工事採算を維持することは難しく、内部留保の充実を優先するのは、今後いつ赤字工事などを抱える事態になっても、自力で耐えうる財務体質を整えておく意味合いが大きい。

今の好調は一時的なのか

こうした先行きへの不安は配当方針にも表れている。東京証券取引所の調べでは2015年度の上場企業の配当性向は平均34.26%だったのに対し、建設業平均は25.91%と、低い水準にとどまっている。

2016年度も絶好調の業績をたたき出したことで、大林組は配当を年間で28円(前期18円)に増配。ただ、ゼネコンの中には「特別配当」を増額する会社が散見された。

清水建設の2016年度の配当は、普通配10円(前期実績は10円)と特別配16円(同6円)を足した26円配(同16円)。2017年度は、普通配14円と特別配6円を合わせた20円配に減配する予定としている。

同社は「少なくとも3年先を見通しても14円配当は問題なくいける」としたうえで、特別配は「それに対するプラスアルファ」だと説明。普通配はベースとなる基本給、特別配は一時的な好業績に対するボーナスという認識だ。

長谷工や大豊建設、松井建設なども特別配を含めた配当を実施しており、現在の好決算を「一時的なもの」ととらえる複雑な思いが垣間見える。

市場からの評価はどうなのか。ドイツ証券の大谷洋司シニアアナリストは資金の使い道について、「建設業はこの先国内市場が縮小していく。ゼネコンは余裕があるうちに、海外の建設会社を買収するなどの手だてを打つべきだ」と指摘する。

実際、大手ゼネコンはバブル崩壊後と同じ轍を踏まぬよう、慎重に投資先を選んでいる。大林組は今後5年間で、不動産賃貸と再生可能エネルギーにそれぞれ1000億円、M&Aに500億円を投資して、新事業の開拓を進める。清水建設も、リニューアル関連のビルメンテナンス会社の買収や、海外での投資開発事業の拡大を検討している。

空前の建設ラッシュで絶好調の業績が続くゼネコン。いつか再来しかねない冬の時代に備えて内部留保を蓄えながら、安定的に稼ぎ続けられる事業の構築を急ぐ時期にさしかかっている。

真城 愛弓 東洋経済 記者

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まき あゆみ / Ayumi Maki

東京都出身。通信社を経て2016年東洋経済新報社入社。建設、不動産、アパレル・専門店などの業界取材を経験。2021年4月よりニュース記事などの編集を担当。

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