日本は主役になれるか iPS細胞ビジネス
iPS実用化に向け障害をクリアできるか
iPS細胞実用化を見据え、すでに動き出した国内企業もある。バイオベンチャーのリプロセル(東京都港区)は、昨年11月に伊藤忠商事と提携し、iPS細胞やES細胞の作成に必要な培養液、細胞の凍結保存液を販売。また、サルのES細胞を利用し、製薬会社から依頼された新薬候補物質の毒性を調べる「創薬スクリーニング事業」も展開する。同社の横山周史社長は、「今後はヒトのiPS細胞も使い、同事業を拡大していきたい」と語る。
横山氏は「iPS細胞の実用化は、まず製薬会社向けの創薬スクリーニングが中心」と言う。製薬会社では新薬開発の際、候補化合物の絞り込みに膨大な費用と時間をかけるが、iPS細胞を使えば効率化が図れるという。また個人の体質に合った薬品を選択する「オーダーメイド医療」も、期待されるビジネスの一つ。世間では再生医療が注目されているが、実用化の道筋は多種多様だ。ただし、民間企業の動きは始まったばかりで、大手製薬会社の取り組み姿勢も大きなポイントだろう。
また、今後の展開に向け、研究面での構造的な課題を懸念する声もある。一般的に科学技術の研究には「基礎研究」と「応用研究」があるが、基礎研究の成果が応用研究によって社会還元されるには、多くの時間と投資資金が必要になる。そのため、「本来はイノベーションの種火の部分である基礎研究の段階で、公的資金の投入が不可欠」(iPS細胞の著書がある田中幹人氏)。だが、「日本政府の支援費用は、米国政府とひとケタ違う」(大学関係者)のが現状。文部科学省ではiPS細胞研究に向こう5年で100億円を投じる。基礎研究の充実のためにも応用研究への“橋渡し役”となるさらなる公的支援が必要といえそうだ。
発表こそ日本発だったiPS細胞だが、今後も主役の座を守り続けられるか。産官学を挙げて協力体制を構築する必要がある。
(許斐健太 =週刊東洋経済)
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