働き方改革で激論!医師は労働者ではない? 日本医師会・横倉会長に発言の真意を聞く
一方、政府は、労働時間に罰則付き上限を設けようとしていますが、これも慎重に対応すべきです。もし、医療機関に罰金が科されるようなことになれば、罰金の額以上にダメージは大きくなります。「ブラック病院」などというレッテルが張られ、医師が集まらない事態になってしまうかもしれません。このようなことになれば、この国の至る所に「無医地区」が出てきて、地域医療は崩壊の憂き目に遭います。
今回、政府の「働き方改革実行計画」で、新たな規制を医師に適用するのを5年間先送りした理由は、医師には医師法に基づく応召義務という特殊性があったからです。医師法19条では「診療に従事する医師は、診察治療の求めがあった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」と定めています。
同条の見直しの必要性も指摘されていますが、日医内の法律関係者を集めた議論では「同条は、医師個人に対しての規定で、医師が勤務する医療機関への規定ではない」との考え方があります。一方、応召義務は、地域全体で医療提供することで、その責務を果たしているとの考え方もあるので、これから新しい制度を議論する中で、大事な論点になるでしょう。
研究などを労働時間かどうかで切り分けるのは難しい
患者さんをどうにかして治そうと思い、医師は調査や研究に没頭したりします。医師の労働を、医療の提供だとしても、患者さんと接して診療している時間だけが、勤務している時間とは簡単には割り切れません。その疾患についてのさまざまな調査や研究をすることも医療の一部だとも言えますし、そのような時間も勤務時間に含むこともあるでしょう。
一方で、私はドイツの病院で臨床をした経験がありますが、そこのスタッフは、研究は自分のレベルアップのための時間だとの感覚を強く持っていました。臨床をする上で、それに関連する調査や研究などを労働時間かどうかで切り分けるのはとても難しいと感じています。
また、医師はさまざまな学会に所属していて、病院の名前で学会発表することも少なくありません。そのための準備は、労働時間にカウントすべきかどうかも、その学会が、どのような性質の学会なのかによって変わってくると思います。ケース・バイ・ケースであって、一概に「労働時間だ、いやそうではない」と決めることはできません。