日本の育児休業3年は長すぎる 仏ソルボンヌ大・リュシ准教授に聞く

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「ワークライフバランス」の実現には、パートタイムで働く女性の比率を増やしたほうがいいとの指摘もありますが、実際の世論調査などでは、フルタイムで働きたい女性がむしろ多い。ところが、ドイツではなかなかフルタイムで働くことができません。パートタイムだと、朝の8時から12時までの勤務。これに対して、フランスの場合、毎日午前中だけ働くのではなく、週4日フルタイムで働き、水曜日は休むといった就業形態が認められています。ドイツに求められるのは、女性が育児をしながら同時にキャリアを積むことができる仕組みを構築することです。

雇用が不安定では、家族政策も十分に機能しません。日本でも同じことが言えます。大事なのは雇用者側の女性支援。女性が育児休暇を取った後、仕事に復帰してもスムーズに行かないケースが少なくない。女性が休暇前に積み重ねたキャリアを放棄せずに済み、十分な収入も得ることができる。そうして、休暇前と同じの条件で元の職場へ復帰できることがとても重要なのです。

育児休業3年は長すぎる

――安倍首相は成長戦略で「育児休業3年」を打ち出しました。

3年は長すぎるでしょう。フランスでも現在、育児休暇は3年ですが、労働市場へ戻るには長すぎます。多くの政治家やエコノミストもこれに反対している。この点に関してはドイツが進んでいます。育児休暇は12カ月。北欧のモデルを取り入れています。その間、収入の67%が保障される仕組みです。12カ月に上乗せして、男性が育児休暇をさらに2カ月間取ることも可能です。女性が職場へ早く復帰できるようにするのは、労働市場の活性化や同市場での女性差別の削減にもある程度は寄与するでしょう

――独仏両国の雇用環境を比較すると、ドイツのほうがフランスよりもかなり良好に見えます。

確かに、ドイツの失業率はフランスを大幅に下回っています。ただ、パートタイムで給料の安い仕事の就いているケースも多く、必ずしも皆が満足しているわけではありません。そのような実態は数字には反映されていない。フランスがドイツを見習う際には、そこに注意する必要があるでしょう。

一方、フランスの雇用市場は規制が厳しく、最低賃金(SMIC)も高め。雇用期間の決まった「CDD」は少ない。このため、失業率は高止まりしています。家族政策にも多くのおカネを振り向けており、今はコスト高の状態です。

ただ、長期的に見れば、ドイツの出生率の低さのほうがコスト高をもたらすはずです。出生率が下がったら、高齢者の年金のファイナンスをどうするのか。労働者が不足していれば、賄うのが難しくなります。女性がもっと働けるような仕組みを整えれば、彼女たちの給料が入り、それに伴って支払う税金も増える結果。税収も膨らみます。そうなれば、年金の支払いも可能になるでしょう。

――2011年5月にリュシさんが書いたレポートでは、ドイツの女性国会議員の全体に占める比率は32.8%とフランスの18.5%を上回っています。

フランスで「政権交代」が起きた結果、現時点では両国とも30%程度とほぼ同水準になっています。各国の男性と女性の共同参画に関する指標を見ると、ドイツは非常に高い。フランスを遙かに上回っています。ところが、この指標は国の大統領や首相が女性であるかどうかも考慮されており、ドイツはメルケル首相が長期にわたって政権の座に就いているため、バイアスがかかっています。

松崎 泰弘 大正大学 教授

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まつざき やすひろ / Yasuhiro Matsuzaki

フリージャーナリスト。1962年、東京生まれ。日本短波放送(現ラジオNIKKEI)、北海道放送(HBC)を経て2000年、東洋経済新報社へ入社。東洋経済では編集局で金融マーケット、欧州経済(特にフランス)などの取材経験が長く、2013年10月からデジタルメディア局に異動し「会社四季報オンライン」担当。著書に『お金持ち入門』(共著、実業之日本社)。趣味はスポーツ。ラグビーには中学時代から20年にわたって没頭し、大学では体育会ラグビー部に在籍していた。2018年3月に退職し、同年4月より大正大学表現学部教授。

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