シリコンバレーは今やソーラーバレーへ
米国では「クリーンテック」と呼ばれる環境ビジネスが急速に台頭し始めている。環境対策“後進国”と揶揄される米国だが、ビジネスとなると話は別。すでに、ベンチャーキャピタル(VC)がこぞって同分野への投資をしている一方で、クリーンテックベンチャーが続々と誕生している。
クリーンテックとは、太陽光発電や風力、バイオ燃料など代替エネルギーや燃料電池、電気自動車、浄水といった地球環境保護分野をひっくるめた総称。2000年代初頭から早耳のVCなどが注目していたが、06年になって急速に投資額が増えた(右棒グラフ参照)。
シリコンバレーの名門VCも我先にと出資を急ぐ。中でも積極的なのが、クライナー・パーキンス・コーフィールド&バイヤーズ(KPCB)だ。06年に6億ドルの新規ファンドのうち1億ドルを同分野へ充当、今年5月にはついに5億ドルの専門ファンドまで立ち上げた。米報道によると、これまでに26社に対して総額2・7億ドルを出資、22人いるパートナーのうち半数以上が同分野への投資にかかわっているという。
KPCBを率いるジョン・ドーア氏はグーグルやアマゾン・コムなどに投資してきた最有力投資家の一人。そのドーア氏が最近ではすっかり環境分野の投資家として知られるようになり、アル・ゴア元米国副大統領が立ち上げた投資会社の諮問委員にも就くほどだ。
藻からバイオ燃料? 開発段階で250万ドル
サン・マイクロシステムズの創業者でKPCB出身のビノッド・コースラ氏も自ら設立したコースラ・ベンチャーズを通じて関連企業へ続々と出資。米メディアに積極的に登場し、クリーンテック分野の有望性について語っている。
微細藻類を利用したバイオ燃料のオーロラ・バイオフュエルズはVCからの出資を受けたベンチャーのひとつ。カリフォルニア大学のビジネスコンテストで優勝して06年に設立した同社は、これまでに3社から総額250万ドルの出資を受けた。同社の技術はまだ研究開発段階で商業化のメドはたっていない。それでも、「VCにとってクリーンテックは『次の大きなビジネス』という期待感が大きい」(共同創設者のギド・ラダエリ氏)。
一方で、太陽光発電を中心に、上場する企業も出てきた。06年12月に上場したファースト・ソーラーの時価総額は今や2兆円超。「今のVCの投資額を考えると、今後も新規上場(IPO)が増えることは間違いない」とクリーン・エッジ代表で『クリーンテック革命』著者のロン・パーニック氏は期待を膨らませる。
クリーンテックに注目するのはVCだけではない。創業者のラリー・ページ氏らが個人で電気スポーツカー「ロードスター」を手掛けるテスラ・モーターズ(関連記事)に出資するなど、独特なエコIT企業であるグーグルは、昨年11月末に「REC<C」と名付けた環境関連プロジェクトを発足させ、「08年度には何千、何百万ドルの資金を代替エネルギー分野の研究開発に振り向ける」と発表した。
データセンターに膨大な電力を利用するグーグルにとって、電力節減は重要な経営課題でもある。すでに、太陽光発電のeソーラーなど数社に出資。さらに数年内には、サンフランシスコ市全土の使用電力に相当する1ギガワットを代替エネルギーによって発電するという壮大な目標まで掲げている。