日立、"絶好調"鉄道ビジネスの課題 英国最大計画で追加受注獲得も、気は抜けず

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クラス395の時は車両174両すべてを笠戸事業所(山口県)で生産したが、今回は規模感がまるで違う。日立は英国北東部ダーラム州に車両製造工場の建設を決めており、15年末に稼働開始する。ピーク時には現地で730人を採用する予定で、17~19年に順次納入を進める計画だ。さらに日立は英国全土の列車運行管理システム(TMS)の再構築プロジェクトの候補にも選ばれている。14年に選定される予定だが、もし獲得できれば、信号や機器などの受注にさらなる追い風が吹くことになる。

英国工場は19年以降の稼動率維持が課題

まさに順風満帆に見えるが、課題もある。IEPへの車両納入を終える19年以後、英国工場の稼働率を維持するために新たな受注を獲得する必要がある。狙いを定めるのは、ロンドンと周辺地域を結ぶ新規鉄道のクロスレールや、欧州本土のプロジェクト。中でもクロスレールについては、7月にドイツのシーメンスが入札撤退を発表したばかり。残るはボンバルディア(カナダ)とカフ(スペイン)、日立の3社となるが、英国政府が自国への貢献を重視している点を考えると、英国内に工場を持つボンバルディアと日立の一騎打ちとなる可能性が考えられる。

英国では保守といったサービスまで手掛けることで、「国内よりも事業の利益率は高くなる」(日立製作所・交通システム社の中山洋社長)。国内は合理化投資にとどめ、海外への投資を拡大する方針だ。13年には中国に信号生産拠点を設立し、14年にはブラジルで生産拠点設立を計画するほか、インドではオペレーションセンターを設立している。

多くの期待を背負う鉄道事業だが、実は2012年度の売上高は1467億円に過ぎず、グループ売上高9兆円の中では「吹けば飛ぶような規模」(日立の中西宏明社長)。これを15年度には2000億円、16年度には2400億円へと引き上げるのが目標で、海外比率は6割となる見通しだ。日立は15年度のグループ海外比率50%超(12年度は41%)を掲げ、グローバルプレイヤーへの脱皮を目指している。鉄道事業は、まさに日立のグローバル展開の先頭を走る存在としての役割が期待されている。

前田 佳子 東洋経済 記者

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まえだ よしこ / Yoshiko Maeda

会社四季報センター記者

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