「観光列車大競争」でJR九州が勝ち残る秘策 凄腕デザイナーがデザインを白紙にした理由

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球磨焼酎酒造組合のプロが列車に乗り込み焼酎をPRすることも(撮影:尾形文繁)

そんな観光列車ラッシュの中でJR九州の観光列車が埋没する心配はないのか。他社と比べた場合、JR九州の観光列車の強みとは何か。そんな質問を青柳社長に投げかけてみたところ、余裕たっぷりの答えが返ってきた。

「会社発足2年後の1989年に当社初の観光列車『ゆふいんの森』を投入した。2004年からは九州新幹線開業に合わせ各地に観光列車を走らせ、つねに先進的なトライアルをしてきた。ここへ来て他社も観光列車を投入し、各社で競い合える段階に入ったのはうれしい。今後は観光列車の先駆者として、新たな境地にチャレンジしていきたい」

観光列車の先駆者として歴史を切り開いてきたという自負がJR九州にはある。気になったのは「新たな境地にチャレンジしていきたい」という発言。JR九州の観光列車戦略に何らかの方針転換があるのだろうか。

地域密着をとことん追求

青柳社長の発言を水戸岡氏が補足した。「JR九州の強みとは地域が応援してくれること。思い切ったデザインをすると地域が”面白いね”と言ってくれる。だからさらに思い切ったデザインをすることができる。この繰り返しです」。つまり、「新たな境地」というのは、地域とのかかわりを今まで以上に強めて、結果として、さらに思い切った観光列車を造るということなのだ。

JRや大手私鉄から第三セクターまで全国の鉄道会社が続々と観光列車を導入している。中には「水戸岡デザイン」をそのまま取り入れた鉄道会社もあり、九州に行かなくても似たような観光列車に乗れるという状況が生まれつつある。が、JR九州には観光列車戦略の元祖としての意地がある。より差別化された列車を生み出さなくてはいけない。その解が、地域とのコラボだった。

「地域密着」は多くの鉄道会社が唱える耳に心地よいキーワードだ。しかし、水戸岡氏が語ったように、車両製造の企画段階から地元が関与することは、面倒な作業を伴う。青柳社長も「当初はもっと簡単に造ることができると思っていた。地域とは互いに意見をぶつけあった」と振り返る。

それでもJR九州は、その困難な道をあえて選んだ。観光列車大競争時代に突入する中、豪華な車両に満足しているだけの会社があるとしたら、地域密着への追求という点で、JR九州の独走ぶりが際立つ結果になるのかもしれない。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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