物価2%上昇達成なら、実質賃金は目減りする 景気・経済観測(日本)

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また、消費税率の引き上げは、実質賃金の大幅な低下をもたらす可能性が高い。2014年度の消費税率引き上げ(5%→8%)だけで消費者物価は2%程度上昇するため、名目賃金を2%引き上げなければ実質所得は目減りしてしまう。消費税率引き上げによる物価上昇分がすべて賃金に反映されれば、実質賃金の目減りは回避できるが、企業の人件費抑制姿勢は依然として根強いため、現実的には厳しいだろう。

実際、過去2回の消費税率引き上げ時(1989年度と1997年度)には、名目賃金の伸びが消費者物価上昇率を大きく下回ったため、実質賃金上昇率は前年度から大きく低下した。また、過去2回の引き上げ時には名目賃金上昇率が明確なプラスとなっていたが、今回は賃金が伸びない中での増税となるので、影響はより深刻なものとなるおそれもあるだろう。

「悪い物価上昇」を甘受するのか

2013年3月に日銀新体制が発足してから4カ月あまりが経過したが、これまでのところ景気、物価ともに当初の想定どおりに推移しており、順調なスタートを切ったという評価ができるだろう。

ただし、消費税率の引き上げが予定されている2014年度には正念場を迎える可能性が高く、場合によっては、景気(需給バランス)の悪化と実質賃金の減少を伴う典型的な「悪い物価上昇」に陥るリスクも否定できない。

もともと、過去の実績からみて、日本に限らず、需給バランスの改善と実質賃金の上昇がそろった形で物価上昇が加速するという「よい物価上昇」を続けていくことは困難である。さらに、消費税率引き上げ時期を含む2年間でこれを実現することは、至難の業と言ってもよいだろう。何が何でも2%の物価目標を達成するということであれば、初めから「悪い物価上昇」を甘受する覚悟が必要かもしれない。
 

斎藤 太郎 ニッセイ基礎研究所 経済調査部長

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さいとう たろう / Taro Saito

1992年京都大学教育学部卒、日本生命保険相互会社入社、96年からニッセイ基礎研究所、2019年より現職、専門は日本経済予測。日本経済研究センターが実施している「ESPフォーキャスト調査」では2020年を含め過去8回、予測的中率の高い優秀フォーキャスターに選ばれている。また、特に労働市場の分析には力を入れており、定評がある。

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