ヤマトさえ耐えきれない「EC豊作貧乏」の苦悩 ネット通販で仕事激増、現場の疲弊は頂点に

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宅配現場の人手不足は深刻さを増している

そこに追い打ちをかけるのが配達を担うドライバーの人手不足だ。

首都圏のある営業所ではこの3年で荷物が2割以上も増加した。物量の増加に対応すべく、昨年よりセールスドライバーを4人、配達を一緒に担うパート社員・フィールドキャストを15人増員したという。それでも増えた荷物を配達しきれない。結局、外部の運送業者に配達の一部を委託することで、何とか乗り切った。

「社員やパートの採用が思うように進まない。外部委託の増加が利益を圧迫している」とシティグループ証券株式調査部の姫野良太ヴァイスプレジデントは指摘する。

実際にデリバリー事業の外部委託費は急激に増えている。2016年4~12月は1029億円と、前期の同期間と比較すると140億円も増えた。一昨年と前期の同じ期間では5.5億円しか増えていないことを考えると、いかに異常な増え方なのかがわかる。

人材不足はヤマトに限ったことではない。同業他社でも逼迫しているため、ドライバーの取り合いになっており、外部に委託する際の単価はどんどん上がっている。ネット通販など単価の安い荷物の増加が重なる”ダブルパンチ”で、宅急便の採算が急激に悪化するという悪循環に陥っている。

再配達率2割を改善せねばならない

ネット通販増加の悪影響は単価だけではない。

国土交通省によれば、再配達に回る荷物の数は宅配便全体の2割に上る。再配達の際は追加で運賃が受け取れるわけはないので、増えれば増えるほどコストがかさむことになる。「EC利用者は不在率が高く、これからますます再配達が増えていく」(宅配大手)。

こうした状況を改善する方法の一つが値上げだ。単純な運賃の値上げのほか、再配達の場合には上乗せするなども考えられる。値上げした分、賃金の魅力を高めて配達員の採用を増やすなど対策の幅が広がる。

ヤマトは一昨年、適正料金の収受という形で一斉に値上げを行った。2015年3月期に宅急便単価は前期比3.7%上昇した。値上げに反発した荷主もいたため、その年の宅配便の個数は減少したが、収支は大きく改善した。

今回の総量規制も値上げに向けた布石と見られる。制限総量の上限に迫れば、値上げを受け入れない荷主の配達を請け負わないこともおこるのだろう。アマゾンをはじめネット通販事業者はある程度の値上げを受け入れざるを得なくなりそうだ。

物流大手の幹部は「ヤマトの動きに佐川急便は賛同するだろう。ネックになるのは日本郵便だ」と指摘する。まだ宅配便のシェアが13.8%と低いこともあって、日本郵便からは「人手不足」という声は聞かれない。

一昨年のヤマトの値上げの際、ヤマトのほか、佐川急便や西濃運輸、福山通運が宅配便の取扱個数を減らす中、日本郵便は前年度比13.2%増と大手の中で唯一、数量を増やした。値上げした他社の分を取り込んだと見られる。

昨年末、日本郵便は6月からはがきなど郵便料金の値上げを発表した。市場関係者の間では、独占市場の郵便で値上げをし、そこで得た利益を元にゆうパックを値下げしシェアの拡大を図るのではという声も聞かれる。今回のヤマトの総量規制に対し、日本郵便がどう出るかが、業界全体の健全化のカギになりそうだ。

値上げをネット通販業者、さらに言えば利用する消費者が受け入れるかどうかも重要だ。先の佐川急便の動画について、ネット上では配達員の過酷な労働環境に対する同情の声も上がっていた。だが、「送料無料」という言葉に慣れきったネット通販の利用者が負担の増加を受け入れられるか。ヤマトが総量規制の先に目指す“価格適正化”にはいくつもの関門が存在している。

鈴木 良英 東洋経済 記者

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すずき よしひで / Yoshihide Suzuki

『週刊東洋経済』編集部記者

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