日立・三菱電機が挑む「研究開発」改革の全貌 マーケットインと起業家精神でR&Dを変える
2015年10月には顧客との共同研究拠点の第一弾として、東京・赤坂の「東京社会イノベーション協創センタ」内に「顧客協創空間」をオープンした。鹿志村香センタ長は「少し前まで、研究所は技術やナレッジを生み出すのが役割で、それを事業部に渡してしまえば終わりだった。今は、事業を収益につなげるところまで含めたイノベーションが求められている」と研究所の役割が変わってきたと説明する。「研究者はプロダクトアウトではなく、マーケットインの発想、顧客のニーズをつかむ必要がある」。
「顧客協創空間」ができたことで2015年度、顧客と議論した案件は前年から倍以上に増加、協創したプロトタイプ実証件数は3倍になった。「顧客協創空間」は今もほぼフル稼働が続く。さすがに課題の分析からスタートするのではすべての要望に対応しきれない。そこで、需要が多い5分野を明確にした上で、その解決に取り組む「オープンラボ」を作ったのだ。
実は「顧客協創空間」も「オープンラボ」も一部実費を請求することはあるが、原則としてビジネスベースではない。顧客ニーズを意識しながらも、あくまで研究開発の位置づけは変えていない。
まずは顧客の要望に合ったさまざまなソリューションを開発し、それを標準化や共通化していくことを目指す。2019年には、中央研究内により規模の大きい顧客協創型の研究設備も新設する計画だ。
三菱電機は”緩い”公募制度
三菱電機・デザイン研究所に所属する松山祥樹氏の仕事は、この3年で大きく変化した。数年前は産業機械の製品デザインに励んでいた。今ではインドネシアで現地家庭に泊まり込むなど、新興国向け冷蔵庫の開発プロジェクトをリーダーとして引っ張っている。
松山氏が変わるきっかけとなったのが、デザイン研究所が2013年度に始めた「デザインX」という公募制度だ。若手デザイナーを中心に事業につながるようなアイデアを募集した。デザインXに選ばれると一定の予算を与えられ、通常業務とは別に取り組むことが認められる。直属の上長は口出しできないルールだ。松山氏の「スモール・ワールド・プロジェクト(SWP)」は初回である13年度のデザインXの一つに選ばれた。
事業化プランのコンテスト自体はそれほど珍しくない。デザインXがユニークなのは、デザイナー向け、かつ”緩い”ということ。「ビジネスになりそうか」は問われるものの、きっちりしたプランではなく、アイデアやコンセプトでも選ばれているものがある。
SWPも、三菱電機の技術を使い新興国向けにいくつかの製品シリーズを作るといった漠然としたものだった。デザインXとして走り出してから、最初に取り組んだのが冷蔵庫だった。
現在ではデザイナーの仕事の幅は急速に広がっている。製品のデザインはもちろんのこと、エスノグラフィと呼ばれる消費者の潜在ニーズを掘り起こすユーザー観察の手法や、社会の変化をとらえたコンセプト提案なども求められる。さらにSWPで製品化を主導するとなると、1デザイナーを超えた役割・能力が求められる。
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