【末吉竹二郎氏・講演】地球温暖化時代における企業の役割(その6~温暖化時代の企業の役割~)

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第11回環境報告書賞 シンポジウム・基調講演より
講師:国連環境計画・金融イニシアチブ 特別顧問 末吉竹二郎
2008年5月15日 東京會舘

その5より続き)

●社会とともに歩む企業

 企業には、会社法で与えられたさまざまなビジネス上の特典がある。会社法に則って手続きをすれば株式会社が設立できるが、会社に与えられた特典は、すべて社会が会社に与えたものだ。つまり、社会と企業には、企業が究極的に社会のためにならないことはしないという暗黙の契約があるはずだ。そういう原点をもう一度思い起こす必要があるのではなか。
 今のように地球社会が大きな課題を抱える時代に、企業に求められる重要なことは、企業が社会とともに歩む、社会と利益を共有するということだ。環境と経済と社会を一体化させて、同じレベルで取り扱っていくようなビジネスモデルが要求されるのではないだろうか。
 さらに広くCSRに取り組むのは当然だが、地球温暖化問題を中心に据えてやることこそ、今、企業に最も強く求められていることだろう。このような中で、時代の変化を先取りするような形の環境報告書に中身が変わっていくことを私は強く期待している。

●会社人間である前に一市民として

 21世紀は、働くことと生きていくことが理念的に一体化していくような時代になるだろう。だから若い人は、地球温暖化の問題を考えるとき、次の世代のため、さらにその先の世代のために、今何をすべきかという視点で考えてほしい。会社の仕事として考える前に、個人として、一市民として温暖化問題をどう考えるのかという受け止め方をしてほしい。
 海外のさまざまな動きを見ていると、具体的に何をやるかも重要だが、それ以前に「何を考えるか」ということが非常に大切だと思う。

●今後の企業に望む姿勢

 これから、企業に考えてもらいたいことをいくつか挙げる。

・「ポジション・ステートメント」を出す
 「わが社は、こういう問題について、こう考えている」という自分の「ポジション・ステートメント」を出している会社はどのくらいあるだろうか。一般論として、「地球環境の心配をしている」とか、「地球環境を大事に思っている」というのではなく、「温暖化問題について、わが社は、こう考えている」ということを、そろそろ明確にしていく必要があるのではないだろうか。
 CSRレポートなどで出されるものは、大部分が情報だが、情報とコミットメント(約束)は違う。これから重要になるのは、自分たちの企業が社会に対してどういうコミットメントをするのかということだ。

・「企業が消費者を動かす」ことを考える
 今、社会は大きく変化しており、その変化に企業がついていくだけでも大変だが、一方で、社会や消費者が、なかなか動いてくれないということもあるだろう。そういう状況の中で、企業が消費者を動かしていくということを考えてもいいのではないか。
それはビジネスのためでもあるし、日本のためでも、世界のためでもある。コミットメントとして自分たちのポジションを決め、そのポジションから消費者や社会に対して問いかけていく。あるいは、いろんな問題について自分たちが何をどう理解しているかという方向性を示していくことが、これからは非常に重要になるのではないだろうか。

・「本業」での貢献を
 企業は、ビジネスがベースになっているのだから、自分たちの本業を通じてコミットメントをどうするか考える。ただ単に、環境に配慮する企業だからCO2を出さないようにするというだけでは説得力がない。社会に対しても重要だが、もっとも大事なのは社内に対して説得力を持つことだ。ビジネスケースとして、どういうビジネスストーリーを描いて問題に取り組んでいくのか、つまりベストな本業をつくり出すプロセスで、この問題に取り組んで解決をしていくことが重要だ。
 多くの環境報告書を見ながら、「そこに、もし企業名がないとしても、それがどの業種のものか分かるだろうか」と考えることがある。企業名を見るまで業種さえ分からないようなら、それはあまりにもジェネラルに過ぎるのではないだろうか。

・「コンプライアンス」は当然のこと
 CSR報告書でコンプライアンスを取り上げているが、最先端の企業では、コンプライアンスは当然のことだ。ヨーロッパで議論していると、CSRにおいてコンプライアンスは、もう通過してしまったものだと受け止めている人もいる。そういうことも頭の中に入れておき、その上でコンプライアンスをやっているのだと考えてほしい。

 本業で、社会に対して自分たちのポジションをつくり、本業を通じて何をしていくのかというコミットメントを出して、その成果を社会や消費者に問う。このようなやり取りの中で、自分たちが鍛えられていくと同時に、社会や消費者からの支持を得てほしいと考えている。
(終)

末吉竹二郎(すえよし・たけじろう)
国連環境計画・金融イニシアチブ(UNEP・FI)特別顧問。日本カーボンオフセット代表理事。1945年1月、鹿児島県生まれ。
東京大学経済学部卒業後、三菱銀行入行。ニューヨーク支店長、同行取締役、東京三菱銀行信託会社(ニューヨーク)頭取、日興アセットマネジメント副社長などを歴任。日興アセット時代にUNEP・FIの運営委員会のメンバーに就任したのをきっかけに、この運動の支援に乗り出した。企業の社外取締役や社外監査役を務めるかたわら、環境問題や企業の社会的責任活動について各種審議会、講演、テレビなどを通じて啓蒙に努めている。
著書に『日本新生』(北星堂)、『カーボンリスク』(北星堂、共著)、『有害連鎖』(幻冬舎)がある。
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