「さほど好きでない」相手と結婚する人の本音 「運命の人」は価値観によってさまざま

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「もちろん、お父さんとお母さんはびっくりしていました。伸明さんが女性を連れてきたことはお兄さんにもすぐ知れて、日を改めてお兄さんとも会うことに。お兄さんは私をすごく気に入ってくれて、『オレが史恵と結婚したかった!』とまで言ってくれました(笑)」

改めて伸明さんの両親と食事をする機会があり、父親からは「伸明と結婚してあげてください」と何度も頭を下げられた。伸明さんと真剣に交際していたとは言いがたい史恵さんは恐縮するしかなかった。伸明さんは予期せぬ展開に茫然自失の様子。

家族が大好きな伸明さんは、尊敬する父親と一番仲がいい兄の意見には強く影響される。2人からの良きプレッシャーに押される形で史恵さんにプロポーズをした。

彼女にとっての「運命の人」

一方の史恵さんは、「さえない」伸明さんとなぜ結婚する気になったのだろうか。まずは地元が同じであるため、大好きな町を離れずに済むこと。筆者も愛知県に住むようになってから気づいたことだが、県内の他の自治体に引っ越すことにも抵抗を感じる「超地元志向」の人はいるのだ。史恵さんもその1人なのだろう。

「私は仕事よりも家のことをするのが好きなので、外で働いてもいいし働かなくてもいい立場でいるのはすごく楽です。いま、契約社員で事務の仕事をしていますが、いつ辞めても生活には困りません」

史恵さんは伸明さんを「目標に向かって努力できない男」だと厳しく評する。「子どもがほしい」と言いながらも、肝心なタイミングの夜にはお酒を飲んでさっさと寝てしまう。会社から個人向けの商品販売のノルマを課されても何もせず、締め切り直前になって史恵さんが代行したこともある。伸明さんは出世もできないし家事はやらないし女性に対してスマートでもないけれど、なぜか憎めない男性なのだろう。

「服は脱ぎ散らかすし、酔ってお風呂に入らずに寝ちゃうこともあります。あなたは私のダンナ兼長男だと本人に伝えました。会社をクビにならずに定年まで勤め上げることが唯一の仕事だよ、と」

長年の恋人であった浩之さんには結婚の直前に報告した。浩之さんの反応は、「ちゃんとお前の条件を満たした相手なのか?」だった。

「私は条件が多いんです。年収800万円以上で、長男ではない男性で、私が専業主婦になる選択肢もあること。地元に住み続けられることも必須ですし、友だち付き合いなども制限されたくありません。結婚したからと言って男友だちを切り捨ててしまうのはもったいない。今でも2人きりでご飯に行ったりもしていますよ。何か起きるわけではありませんが、友だち関係は続けていきたいです。ダンナのことはすごく好きになって結婚したわけではない。でも、私の相手はこの人しかいないと今では思っています」

30代の終わりまでに恋愛も友情も満喫した史恵さんは独身のままで生きる覚悟をしていた。だからこそ、結婚には数々の条件を掲げ続けた。ただし、その条件には「大恋愛ができるスマートなイケメン」などの項目は入っていない。

史恵さんにとっての結婚は、「地元で自由気ままな生活を続けることを邪魔しない」ことであり、優しい父親の延長線上のような夫を求めていたのだと思う。その意味で伸明さんは運命の人だったのだ。今、史江さんの目には憂いがまったく見当たらない。

大宮 冬洋 ライター

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おおみや とうよう / Toyo Omiya

1976年埼玉県生まれ。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリングに入社するがわずか1年で退社。編集プロダクション勤務を経て、2002年よりフリーライター。著書に『30代未婚男』(共著、NHK出版)、『バブルの遺言』(廣済堂出版)、『あした会社がなくなっても生きていく12の知恵』『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。』(ともに、ぱる出版)、『人は死ぬまで結婚できる 晩婚時代の幸せのつかみ方』 (講談社+α新書)など。

読者の方々との交流イベント「スナック大宮」を東京や愛知で毎月開催。http://omiyatoyo.com/

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