韓国・李明博大統領−就任100日で迎えた政治的危機

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そのため、「国民の食の安全と引き替えにキャンプデービッドの宿泊権を得たのか」と言われる始末。李大統領にとっては、思いも寄らなかった反発だろうが、反対派からすれば格好の口実を得る結果となってしまった。

見えない事態打開策

16日現在、反政府集会をなど事態が沈静化する兆しはまったくない。大統領府や内閣メンバーは改造を考えているようだが、それだけでは事態は収まらないだろう。最大の薬は「米韓FTAの再交渉」という声が最も強いが、一度妥結した交渉を覆すということは、国際慣例上、例がない。

そのため李大統領は「再交渉ではなく、追加交渉」として、FTA交渉の責任者である金宗フン(キム・ジョンフン)・通商交渉本部長を米国に派遣した。“追加交渉”では、輸出される米国産牛肉の月齢は30カ月未満にしてほしいと、米国側に“自主規制”を求めることを最大の目標にしているようだが、米国側がこれを受け入れるかどうかは未知数だ。また「日本は20カ月未満なのに、なぜ同じ条件でできないのか」という韓国国民の不満も根強い。

10年以内に年7%成長、1人当たり国民所得4万ドル、世界第7位の大国入り−−。07年12月の大統領選挙では光り輝いていた公約「大韓民国747」は、すでに「547」「447」だと揶揄されるほど色あせてしまった。企業減税や規制緩和を果敢に行い、成長重視で経済に活力を与える政策は、すでに原油高に始まる2桁の物価上昇率に翻弄されている。「今年下半期は公共料金の管理が重要」(姜万洙(カン・マンス)企画財政相)とし、値上げ凍結をはじめ物価重視の政策に転換している。

また、外資を呼び込んで国内経済を活性化させる政策も、連日デモや反政府集会の光景ばかり見せつけられては、投資をしようという気さえ起こらないのが実情だろう。

韓米FTAなど現在国民が反発している事項は、実は前政権が決定した内容で、李大統領にしてみれば「おれがやったんではない」と言いたいのが本音だろう。

確かに、短期間で目に見える成果を経済面で上げるのは難しく、早急な成果を望む国民の態度に加え、「韓国人はBSEにかかりやすい」といった非科学的な話を安易に流してしまうメディアに問題がなくはない。実際に、「輸入再開に反対してくれる国民がこれほど多いことはありがたいが、政府やわれわれの説明を曲解している人も少なくはない」と、畜産生産者団体の関係者は打ち明ける。

しかし、「経済大統領」「CEO大統領」をアピールし「今すぐにでも経済を回復してみせる」と豪語していたのは、大統領自身。効率を重視するのがCEOであれば、責任を取るのもCEOだ。このままでは、前政権同様、「無能」のレッテルを貼られたまま大統領生命を終えることになりそうだ。最悪の場合、「大韓民国史上初の、自ら退陣を表明せざるを得ない大統領になる」(与党系国会議員)可能性も高まっている。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『金正恩の「決断」を読み解く』(彩流社)、『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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