貧困に陥った若者が、「下流老人」になる未来 生活保護受給者の爆発的増加は避けられない

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経済学者の森岡孝二氏も、著書『雇用身分社会』(岩波新書)において、「労働者がさまざまな雇用形態に引き裂かれ、雇用の不安定化が進み、正規と非正規の格差にとどまらず、それぞれの雇用形態が階層化し身分化することによって作り出された現代日本の社会構造」が問題だと指摘する。

森岡氏は同じ企業内において、厳然と身分が形成されていることを指摘し、非正規雇用と正社員の間にある「断絶」を問題視している。そのような雇用形態としての身分は、戦前にあった繊維産業の工場労働者における正社員と、差別を受けていた「職工」や「女工」のようであるとすら記述している。

若者たちは、日々の生活を送るだけで精一杯だ。現代日本の社会構造の問題として若者の労働環境を是正しなければ、日本は生涯にわたって低賃金で不安定な階層を作り出し、温存していくこととなる。若者に自動車を買うなどの消費をするための余力を与えてほしい。

「1億総下流老人社会」が到来する

そして、現在年金を受け取る立場の人よりもさらに現役時代の賃金が低い場合は、生活保護基準を割り込んだ年金収入しか老後に得られないことは明らかだ。若者の貧困と高齢者の貧困は相当に関連性があり、密接なつながりを有している。いまここで対策を打たなければ、「1億総下流老人社会」が到来することは目に見えているのである。

にもかかわらず、若者たちへのまなざしや支援の希薄さは顕著である。下流老人や貧困世代の抱える問題は、もはや個人的な問題ではなく、社会政策として対応を求められているのだということは繰り返し強調しておかなければならない。

現在の雇用形態や賃金が続けば、生活保護制度を利用せざるを得なくなる人々が、ちらほらというレベルではなく、間違いなく膨大な数に及ぶ。これは社会保障制度の根幹にかかわる問題である。

国税庁の調査によると、日本の民間企業の従業員・役員が1年間に得た平均給与は、415万円とされる(2014年時点)。この平均年収が40年間続くことを前提すると、前述したとおり、老後におよそ月額16万5000円の年金が支給される。

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