「働き過ぎで命を失わない」ためにできること 残業代をしっかり「払う」「もらう」の意義

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この「業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務」は一般に安全配慮義務と呼ばれる。具体的には、労働時間を適切に把握する義務、長時間労働を回避するよう適切な労働条件を確保する義務、過密な労働にならないよう労働量や人員配置などの点で配慮する義務などが使用者に義務づけられている。

要するに「働き過ぎれば人が死ぬこともある」ということを最高裁判所が正式に認め、企業に対して長時間労働や過重労働を防止するようさまざまな措置を講じる義務を課しているのが、この電通事件最高裁判決のポイントだ。

使用者がこの義務を遵守せずに過労死などが発生した場合、使用者は安全配慮義務違反として損害賠償責任を負うことになる。

長時間労働を防ぐためにはどうすればいいのか?

違法な長時間労働は電通に限った話ではなく、現在の日本において深刻な社会問題になっている。今回の電通過労死事件を受けて筆者が事務局長を務めるブラック企業被害対策弁護団では11月4日に「真夜中の労働ホットライン」を開催し、夜9時から深夜2時まで電話で相談を受け付けたが、電話は鳴り止まず合計で約70件の相談がかかってきた。そのうち29件は相談者の残業時間が過労死ラインと言われる月80時間を超えていた。

長時間労働をなくしていくためにはどうすればいいのか。現在、この点については、さまざまな観点から論じられているが、現行の労働基準法でも長時間労働を防ぐ手だては講じられていることは改めて強調しておきたい。それは、残業をした場合に通常の賃金以上の割増賃金を使用者に義務づけている制度だ。

労働基準法37条1項は、「残業(時間外労働)や休日労働をさせた場合は通常の賃金の25%増しの割増賃金を支払わなければならない」と義務づけている。たとえば、時給1000円の労働者が1時間残業をした場合には、1時間分の割増賃金として1250円を支払わなければならない。

残業代を支払わないことは立派な犯罪であり、6カ月以下の懲役又は30万円以下の罰金が科せられる(労働基準法119条、労働基準法37条)。また、残業代の不払いがあった場合、裁判所は、使用者に対して未払い残業代のほかに同額の付加金という制裁金の支払いを命じることができる。

残業代を請求し、使用者に割増賃金を(場合によってはさらに付加金も)きちんと支払わせることは、長時間労働を抑制させる効果をもたらす。通常の25%増し(1カ月の残業時間が60時間を超えた場合は50%増し)の賃金の支払いをするということは経営者(使用者)にとっては経済的なダメージは大きい。企業の経営を考えるならば不必要なコストはカットしたほうが望ましく、長時間労働が恒常化している企業では割増残業代を支払うことは経済的、経営的には不合理な選択のはずである。

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