「東武の新型特急」はロマンスカーに勝てるか 日光・鬼怒川観光活性化へ、ブランド力がカギ

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東武の路線網は、池袋を起点とする東上線を除けば、浅草を起点とする伊勢崎線(東武スカイツリーライン)を幹として枝分かれするように各方面に伸びており、観光地や地域の中心となる駅がそれぞれ異なる路線に点在している。たとえば、日光・鬼怒川の玄関口である東武日光駅と鬼怒川温泉駅はどちらも栃木県日光市内にあり、近接したエリアではあるものの、駅自体はそれぞれ別の路線にある。

このため、東武日光行きの特急は「けごん」、鬼怒川温泉行きは「きぬ」と別々の列車を運行している。また、館林や太田など、伊勢崎線沿線の群馬県内各都市へは別の特急列車「りょうもう」が走っている。いずれも浅草から途中の分岐駅までは同じ区間を走るものの、目的地ごとに異なる列車が走っているわけだ。

だが、3両編成を組み合わせて運行する「リバティ」は、途中駅までは1本の特急として走り、分岐する駅で切り離してそれぞれの目的地に向かうという運行スタイルが可能だ。都筑氏は「今後のダイヤ編成の可能性を格段に拡げることにつながり、広域な路線網をシームレスに結ぶフレキシブルな特急の設定が可能になる」という。「リバティ」の愛称も「併結・分割機能を活かした多線区での運行」を表すという「バラエティ(Variety)」と、東武の路線網を縦横無尽に運行する「自由度の高さ」を示すという「リバティ(Liberty)」から生まれた造語だ。

3両でキャパシティは足りる?

新型特急500系「リバティ」のイメージ。前面中央の窓がない部分が、連結した際に通り抜けできる貫通路となる部分だ(提供:東武鉄道)

「リバティ」の導入によって来春から新たに運転するのは、日光行きと鬼怒川温泉行きを連結し、下今市駅で切り離す「リバティけごん・きぬ」や、館林行きと日光行きを連結し、途中の東武動物公園駅で切り離す「リバティけごん・りょうもう」など。さらに、鬼怒川温泉駅より先の会津鉄道・会津田島駅(福島県)まで乗り入れる列車「リバティ会津」や、春日部駅で接続する東武アーバンパークライン(野田線)に乗り入れ、同駅で切り離して大宮駅と野田市駅へ向かう特急「アーバンパークライナー」も初登場する。

だが、新たに登場するアーバンパークラインなどへの列車を除けば、基本的に現在は6両編成の特急が走っている区間だ。途中駅までは2本を連結した6両で走るとはいえ、最終目的地へは3両で向かうことになり、1列車あたりのキャパシティは減少することになる。

では、特急の利用者減少が起きているのか、そのための効率化や合理化が目的なのかというと、そうではないという。

都筑氏によると「(日光・鬼怒川への)観光輸送は波があるので、確かに時期によって乗車効率に差が出ることもあるが、繁忙期などは臨時を出すほど」で、キャパシティを減らすような状況ではない。日光を訪れる観光客数は東日本大震災が発生した2011年に大幅に落ち込んだものの、その後は増加が続いており、同市の統計では2015年度の観光客数は1195万7000人と震災前を上回り、この10年間で最多を記録した。

「リバティ」は3両編成8本を導入するが、これまでの「スペーシア」や「りょうもう」の車両も引き続き使用するため、特急車両は現在よりも増える。来春行うダイヤ改正についても、東武は「基本的に特急は増備ということでダイヤを組んでいきたい」といい、特急の運転本数は増えるとみられる。乗り換えなしで各方面に向かう列車を運転することで、通勤・観光ともに特急利用者のさらなる増加を狙っているわけだ。

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